私用AIで働く人の71%が機密を入力、職場ルールの空白

米人事ソフト会社BambooHRは2026年9月1日、米国の常勤デスクワーカーを対象とする職場AI調査を公表した。同日配信されたBambooHRの発表 によると、回答者の59%が私用AIアカウントを仕事に使い、その利用者の71%が顧客データ、独自戦略、その他の機微な会社情報を、勤務先から見えないツールへ入力したと答えた。明文化され、一貫して周知されたAI利用方針がない組織も54%に上った。
この結果が示すのは、私用AIを一律に許可するか禁止するかだけでは、業務データを管理しきれないという問題だ。日本企業では少なくとも、入力データ、アカウント、保存履歴、承認経路を分け、誰が何を確認するかまで規程に落とす必要がある。ただし、71%は全回答者ではなく私用AIを業務利用する人の割合であり、実際の情報漏えい件数を示す数字でもない。
71%が示すのは漏えい件数ではなく管理外への入力

BambooHRの調査詳細 によれば、対象は米国在住の18歳以上で、フルタイムの給与所得者としてデスクワークに就く1608人。うち520人は管理職以上の人事担当者だった。Method Researchが作成したオンライン調査をRepDataが配布し、2026年6月26日から7月15日まで回答を集めた。
71%という結果は、顧客データや独自戦略などを管理外のツールへ入力したという回答者本人の申告に基づく。入力内容を調査者が閲覧して機密性を判定したわけでも、その後に第三者への開示や不正利用が起きたことを確認したわけでもない。したがって、「71%で情報漏えいが発生した」と読み替えることはできない。
一方で、管理上の死角は数字に表れている。私用AIを使う回答者の44%は入力直後にプロンプトを削除していると答え、会社提供のAIについては従業員の50%が勤務先によるプロンプト確認の可能性を認識していなかった。利用者による画面上の削除、サービス側の保存、会社が取得する監査記録が別々に扱われている可能性があり、「履歴を消したから情報も残らない」とは限らない。
調査対象は米国の給与制デスクワーカーであり、業種構成、雇用慣行、利用するAIサービス、社内規程が異なる日本の職場へ71%を直接当てはめることはできない。日本企業にとっての論点は同じ割合を探すことではなく、従業員が私用アカウントから業務情報を入力でき、その事実を会社が把握できない経路が残っているかどうかである。
禁止だけでは「何が違反か」を判断できない
「未承認の生成AIは業務利用禁止」という一文だけでは、現場が判断すべき境界が残る。文章の要約、翻訳、メール作成、コードの確認といった作業で、固有名詞を消せばよいのか、契約条件や案件の特徴も除くべきか、公開済み情報なら入力できるのかが分からなければ、ルールは日々の作業に適用できない。
顧客名を伏せた商談記録でも、業界、地域、価格、契約時期の組み合わせから相手を推測できる場合がある。入力可否は固有名詞の有無だけでなく、元データの機密区分、個人や企業を再識別できる可能性、契約上の守秘義務を基準に判断する必要がある。
法人向け契約のAIも、契約しただけですべての入力が安全になるわけではない。入力データの学習利用、保存期間、管理者の閲覧範囲、外部連携、削除手続きはサービス、契約、設定によって異なる。許可する製品名だけでなく、利用できるアカウント種別と設定、対象業務を組み合わせて指定することが欠かせない。
日本の職場で規程に落とす4項目

日本では、IPAが2026年7月31日に公開した 生成AIセキュリティの実務資料 が、未承認AIを業務に使う「シャドーAI」による情報漏えいリスクを挙げ、全社ガバナンス、利用ガイドライン、技術・運用・人的統制を整理している。今回の調査結果を日本企業の規程へ反映する場合、管理の空白は次の4項目で点検できる。
- 入力データ:顧客情報、個人データ、認証情報、未公表の経営・商品戦略、契約書、非公開のソースコードなど、入力禁止または事前審査が必要な区分を具体的に示す。文書全体だけでなく、抜粋、要約、画面画像、添付ファイルにも同じ基準を適用する。
- アカウント:業務利用できるサービス、法人契約、ログイン方法、必須設定を指定する。会社が承認したサービスであっても、私用アカウントは管理機能や契約上の保護の対象外になり得るため、製品とアカウントを別々に確認する。
- 保存履歴:プロンプト、添付データ、生成結果、操作ログを誰が、何の目的で、どの期間保存・閲覧できるかを定める。利用者の画面から履歴を削除した場合に、サービス側の保持データや管理者向け監査ログがどう扱われるかも確認する。
- 承認経路:通常利用を所管する部署、機密情報を扱う例外の承認者、判断に迷った場合の相談先、誤入力時の報告先を明示する。承認まで利用を止める場合は、承認済みの代替手段も用意する。
運用表には可否だけでなく、判断根拠、データの管理部署、承認者、確認日を残す。AIサービスの利用規約や管理機能が変わったときに、誰が再確認して規程を更新するかまで決めなければ、作成時点では正しかった許可リストも次第に実態から離れる。
履歴確認には説明と事故報告の設計が要る

会社がプロンプト履歴を確認できれば、事故調査や規程順守の確認に役立つ。しかし、確認の目的、対象となるアカウント、閲覧権限、保存期間、評価や懲戒への利用範囲を知らせなければ、従業員は監視の実態を理解できない。履歴管理は収集機能の導入だけでなく、従業員への説明と一体で設計する必要がある。
機密情報を誤入力した際も、利用者が自分の画面から履歴を消すだけでは対応を終えられない。報告項目には、利用したサービス、アカウント種別、入力日時、情報の種類、添付や共有の有無を含める。管理者はその情報を基に、提供事業者への削除依頼、共有設定の解除、認証情報の失効、関係部署への連絡が必要かを判断できる。
報告者への処分だけを前面に出すと、誤入力が発覚しにくくなるおそれがある。故意の持ち出しと操作ミスを区別し、迅速な自己申告を事故の封じ込めにつなげる手順を示すことが、ルールを実際に機能させる条件になる。
日本での発生割合と実害はまだ分からない
今回確認されたのは、米国調査で私用AIの業務利用者の71%が、勤務先から見えないツールへ機微な会社情報を入力したと自己申告したことだ。実際に外部流出へ至った件数、入力先サービスごとの差、企業規模や業種別の傾向、日本の職場における同様の割合は公表結果から判断できない。
日本企業に残る課題は、米国の71%を自社の推計値として使うことではなく、承認済みAIの利用状況、私用アカウントで処理できてしまう業務、例外承認に要する時間、誤入力の報告状況を把握することにある。入力データ、アカウント、保存履歴、承認経路を同じ運用表で更新できるかが、会社から見えないAI利用を減らす焦点となる。
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