OptQCが70億円調達、常温の光量子計算機を1万量子ビットへ

光量子コンピュータを開発するOptQCは2026年8月25日、NTTをリード投資家とするシリーズA2を完了し、第三者割当増資で70億円を調達した。OptQCの発表 では、NTTを含む事業会社、独立系ベンチャーキャピタル、公的機関の計21社が参加し、調達資金を次世代光量子プロセッサの開発と人材採用に充てるとしている。
同社が8月25日に示した次世代機の目標は、常温・常圧動作を維持しながら約1万量子ビット、2026年7月に稼働した第1世代機に対して約100倍の計算性能を実現することだ。独立系スタートアップ媒体の KEPPLEの報道 も、今回の70億円、株式による累計91.5億円、補助金込み200億円超と、これらの開発目標を確認している。
70億円、91.5億円、200億円超の違い

三つの金額は、対象となる資金の範囲が異なる。70億円は今回のシリーズA2で新たに調達した株式資金で、過去のラウンドや公的補助金を含まない。
91.5億円は株式調達の累計額だ。2025年1月のシードラウンド6.5億円、同年10月のシリーズA1が15億円、今回の70億円を合計した数字であり、70億円と91.5億円を別々に加算するものではない。
200億円超は、株式による91.5億円に、採択済みの公的研究開発補助金を加えた確保資金の総額を指す。企業価値や今回の増資額ではなく、用途や実施期間などの条件が付く補助金も含むため、全額を自由に配分できる株式資金とも性質が異なる。今回の発表では、各補助金の金額や執行時期の内訳までは示されていない。
つまり、OptQCは長期的な研究開発を公的資金でも支えながら、新たな株主資本を装置開発、人材拡充、事業化の加速に投入する構成を採った。三つの金額を分けることで、今回確定した増資の規模と、同社がこれまでに確保した研究開発資金の全体像を混同せずに把握できる。
21社が通信、製造、航空、金融を横断

投資家は、リード投資家のNTT、事業会社およびCVCに分類された14社、独立系VC5社、公的機関1機関で構成される。事業会社側にはANAホールディングス、キヤノンマーケティングジャパン、KDDI、京セラ、三菱電機、三菱地所、三菱UFJキャピタル、みずほキャピタル、NGK、ニッセイ・キャピタル、SBIホールディングス、島津製作所、SMBCベンチャーキャピタル、住商ベンチャー・パートナーズが参加した。
独立系VCはデライト・ベンチャーズ、グローバル・ブレイン、未来創生3号ファンド、モバイル・インターネットキャピタル、SBIインベストメントで、公的機関として科学技術振興機構(JST)が加わった。通信、電機、精密機器、航空、不動産、金融にまたがる構成は、研究資金だけでなく、将来の部品供給、実証環境、利用分野との接点を広げる可能性がある。ただし、出資への参加が製品採用や共同開発契約の成立を意味するわけではない。
KDDIは同日、KDDI Open Innovation Fund Vによる出資 を公表し、通信やAI計算基盤などのグループ資産を使って社会実装を支援する方針を示した。具体的な共同サービス、導入先、商用化時期は明らかにしていない。
次世代機は約1万量子ビット、性能100倍が目標

資金使途の中心は、次世代光量子プロセッサの研究開発だ。比較の基準となる第1世代機「MoQuren」は、安定動作を重視した実証機として、産業技術総合研究所の量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT)で2026年7月に稼働を始めた。
約1万量子ビットと約100倍は、すでに達成した性能ではなく、後継プロセッサに掲げた開発目標である。「100倍」の比較対象はOptQCの現行機であり、他社の量子コンピュータやスーパーコンピュータに対する一律の優位性を示す数字ではない。対象処理、測定方法、実アプリケーションでの所要時間といったベンチマーク条件も、今回の発表では開示されていない。
採用対象は量子光学に限らず、電気回路、機械、制御、ソフトウェア、アルゴリズム、事業開発に及ぶ。量子ビット数の拡大に加え、光学系の制御、安定運転、ソフトウェアとの接続、利用企業との検証を並行して進めるための体制拡充と位置付けられる。
常温・常圧は設置条件を軽くする可能性
OptQCの光量子方式は、極低温の冷凍機や真空環境を前提とせず、常温・常圧で動作する。次世代機でもこの条件を維持したまま規模を拡大する計画で、タイトルの「常温の光量子計算機を1万量子ビットへ」は、この未達成の開発目標を示している。
事業上の意味は、計算性能だけでなく、設備、設置場所、保守、エネルギー消費といった導入条件を軽減できる可能性にある。既存データセンターへの設置や光通信インフラとの接続を検討しやすくなることも、通信事業者が参加する今回の投資家構成と接点を持つ。
一方、常温動作だけで総保有コストや商用上の優位性が確定するわけではない。装置全体の消費電力、占有面積、誤り率、連続稼働時間、保守頻度、誤り訂正に必要な資源が開示されて初めて、ほかの量子方式や従来型計算基盤との経済性を比較できる。今回確定したのは比較結果ではなく、比較可能な規模を目指す次世代機の開発資金である。
未公表なのは完成時期と評価条件
現時点で確認できるのは、シリーズA2の完了、70億円の株式調達、21社の参加、株式累計91.5億円、補助金込み200億円超、次世代機と採用への資金配分だ。一方、約1万量子ビット機の完成時期、100倍性能の測定条件、顧客向けの提供形態、価格、個別の共同利用案件は公表されていない。
今後の焦点は、調達規模そのものから開発工程の実行へ移る。次世代プロセッサの試作・稼働時期、現行機との比較方法、常温・常圧環境での安定性、投資家との具体的な実証内容が示されれば、70億円の新規資金が技術規模と事業化の速度にどう結び付いたかを評価できるようになる。
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