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G7が耐量子暗号への移行要請、最初に作るのは暗号資産台帳

|著者: QUASA編集チーム|2 分で読めます| 3
G7が耐量子暗号への移行要請、最初に作るのは暗号資産台帳

G7サイバーセキュリティ作業部会は2026年9月3日、政府と民間組織に対し、耐量子計算機暗号(PQC)への移行準備をできるだけ早く始めるよう求める共同文書を公表した。ANSSIが掲載した共同文書の概要 は、暗号解読に使える量子計算機の登場時期は不確実だとしたうえで、公開鍵暗号への脅威を全業種が短期的に対応すべき課題と位置づけている。

G7が示した作業順を企業や公共機関の成果物に置き換えると、最初に必要なのは暗号資産台帳である。カナダ・サイバーセキュリティセンターの説明 では、暗号資産の棚卸し、重要システムの特定、依存関係の把握、移行計画の策定が、段階的でリスクに基づく移行の構成要素として明記されている。

警告は将来の解読だけでなく、現在の収集に向けられた

公開鍵暗号が通信、認証、署名、機器の信頼性を支える範囲

早期着手が必要な理由は、量子計算機の完成時点から危険が始まるとは限らないためだ。攻撃者が公開鍵暗号で保護されたデータを現在収集して保存し、将来、十分な量子計算能力を得た段階で解読する「harvest now, decrypt later」が想定されている。長期間秘密にすべき情報では、移行前に暗号文を取得されること自体が将来の漏えいにつながり得る。

影響範囲は通信内容の機密性にとどまらない。公開鍵暗号は相手の認証、データや文書の完全性、ソフトウェア更新や機器の正当性を確かめる仕組みにも使われる。G7は、量子計算を利用した攻撃によって、信頼された主体へのなりすまし、データの偽造、機器の侵害、安全な通信への信頼低下が起こり得ると警告している。

一方、共同文書は暗号を破れる量子計算機の完成年を断定していない。今回の要請は特定の日に既存方式が一斉に使えなくなるとの予報ではなく、データを守る期間と移行に要する期間を考えれば、完成時期が判明してからの着手では遅い資産があるというリスク判断である。

暗号資産台帳は仮想通貨の一覧ではない

暗号方式、証明書、署名、長期保存データ、組み込み機器を登録した暗号資産台帳

ここでいう暗号資産は、暗号資産交換業者が扱う仮想通貨ではない。組織内で使われる暗号方式、鍵、証明書、電子署名、それらを組み込んだシステム、機器、サービスを指す。台帳の役割は、どの暗号部品を交換すれば、どの業務や取引先に影響が及ぶかを追跡できる状態にすることだ。

棚卸し対象は、性質の異なる次の領域に分けると漏れを見つけやすい。

  • 長期保存データ:個人情報、設計情報、研究資料、契約記録など、将来も秘密である必要がある情報と、その保存先・転送経路。
  • 公開鍵暗号の利用箇所:TLS、VPN、リモート接続、システム間連携などで使う方式、ライブラリ、鍵共有の仕組み。
  • 証明書と認証基盤:サーバー証明書、端末証明書、認証局、クラウドや取引先との相互認証、更新期限。
  • 電子署名:コード、文書、ファームウェア、監査記録など、真正性を長期間証明する必要がある処理。
  • 組み込み機器と外部依存:ネットワーク機器、制御装置、IoT端末、セキュアブートなど、自組織だけでは方式を変更できない資産。

各項目には、利用中の方式だけでなく、守るデータ、所有部門、提供事業者、接続先、更新周期、停止可能時間を結びつける必要がある。暗号アルゴリズムの名称だけを並べても、変更時に止まる業務や、供給事業者の対応を待つ設備が分からなければ移行計画にはならない。

優先順位は予想年ではなくデータ寿命で決める

棚卸し後に必要なのは、全資産の一斉更新ではなく、被害と時間を基準にした順位づけだ。優先度が高いのは、漏えい時の影響が大きく、長期間の秘匿が必要で、外部ネットワークから取得される可能性があり、移行にも長い時間を要する資産である。

台帳には少なくとも「保護が必要な期間」と「移行に必要な期間」を別々に記録したい。前者が長いデータは現在の収集に弱く、後者が長い認証基盤や組み込み機器は着手の遅れを後から取り戻しにくい。量子計算機が実用化される予想年だけを優先順位の基準にすると、この二つの時間差が見えなくなる。

署名には、暗号化データとは異なる判断も要る。長期間配布されるソフトウェアや保存される文書では、内容を秘密にする期間だけでなく、署名を信頼できなければならない期間を記録する必要がある。証明書自体が短命でも、発行元、端末、アプリケーション、監視設備が連動するため、交換作業が短いとは限らない。

移行表は短期・更新周期内・長期に分ける

重要データと設備更新周期に応じて三段階に分けた耐量子暗号の移行工程

G7の要請は、機密性の高いデータと重要資産を優先する段階的な移行を求めている。9月7日付のITPro報道 は、暗号資産と依存関係を把握して移行計画を作り、通常の設備更新にPQC対応製品への交換を組み込めば、移行費用を抑えられる可能性があるという勧告内容を伝えた。

この方針を日本の組織向けの工程表に落とすなら、台帳の各項目を次の三段階に割り当てられる。これはG7が共通期限として示した区分ではなく、同文書の段階的・リスクベースという原則を、更新実務に対応させるための整理である。

  1. 短期:長期保存する機密データ、外部に露出する公開鍵暗号、重要な認証・署名経路を特定する。方式、責任部門、依存先、データ寿命を台帳に登録し、変更時の影響を確認する。
  2. 通常の更新周期内:サーバー、ネットワーク製品、クラウド接続、業務アプリケーションの更改時に、PQC対応計画と暗号部品を交換できる設計を調達条件へ反映する。取引先や提供事業者の対応時期も台帳にひも付ける。
  3. 長期:更新が難しい組み込み機器、産業制御環境、長寿命の署名・認証基盤について、機器交換、ファームウェア対応、互換運用、廃止までを個別に計画する。

段階分けは、短期に一つの新方式へ統一することを意味しない。従来方式とPQCが併存する期間には、接続性、処理性能、証明書や署名の検証、障害時の復旧を確認する必要がある。将来さらに方式が変わっても部品単位で交換できる暗号アジリティーも、更新時の設計条件になる。

共通の完了期限は示されていない

共同文書が示したのは、G7全体に適用される一律の移行完了日ではない。各組織は自国のサイバーセキュリティ当局が示す期限や要件に従い、重要度に応じて移行を進めることになる。G7は各国に、国家戦略、PQC対応製品の供給、研究開発、官民連携、サイバーセキュリティ要件への組み込みを進めるよう求めている。

現時点で確定しているのは、G7が官民に早期着手を要請し、その入口として暗号資産の棚卸し、重要システムの特定、依存関係の把握、移行計画を挙げたことだ。暗号を解読できる量子計算機の完成時期や、各国の具体的な移行期限、個別製品の対応時期は一律には決まっていない。次の焦点は、日本を含む各国当局の工程と調達要件、各事業者が台帳を実際の更新計画へ結びつけられるかに移る。

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