
売上が伸びても現金は減る、増加運転資金を先に計算する

増加運転資金は、売上拡大後の「売上債権+棚卸資産-仕入債務」から拡大前の同額を引いて求める。INVOYの前後差による計算も、この方法を示している。差額がプラスなら、その分だけ売掛金や在庫に追加の資金が必要になる。
売上が伸びても、販売代金を回収する前に仕入れの支払いが来れば、利益を計上した時点で手元の現金は減り得る。金融庁の運転資金の整理は、売上増加に加え、支払期日の短縮や在庫の増加も必要額を押し上げる要因として挙げる。したがって、売上予測だけで追加資金を決めず、三つの残高を増加前後で見積もる。
決算書から比較の基準を作る
増加前の運転資金には、貸借対照表または月次試算表の同じ基準日にある売上債権、棚卸資産、仕入債務を使う。売上債権は売掛金や受取手形などの未回収額、棚卸資産は商品や原材料、仕掛品などの在庫、仕入債務は買掛金や支払手形などの未払額だ。増加後も同じ範囲で集計しなければ、取引の変化と集計方法の違いが混ざってしまう。
売上債権と棚卸資産は、回収または販売まで資金を事業内にとどめるため足す。仕入債務は支払期限まで手元に残る資金に相当するため引く。売掛金と在庫が増えても買掛金が同額だけ増えれば、この式で求める追加額は変わらない。一方、仕入先への支払いが早まり買掛金残高が減れば、売上が横ばいでも必要額は増える。
決算日の残高は計算の出発点だが、一日の数字が通常の水準とは限らない。季節商品の仕入れ直後や大口請求の直後なら、月次残高も並べて、比較に使う基準がどの状態を表すかを明確にする。増加後の欄には売上予算そのものではなく、その売上に対応して残る未回収額、在庫、未払額を入れる。
売上予測を三つの見込み残高に変える
売上債権は、掛け売りの規模と回収までの期間を分けて見積もる。月間の掛売上が増え、入金までの月数が同じなら、未回収残高もおおむね増える。反対に、前受けや現金決済が増える取引では、売上全体の伸びをそのまま売上債権に掛けられない。入金条件を取引先別に置くと、売上増加による変化と回収条件の変更を区別できる。
在庫は、増える販売量を支えるための保有量と、発注単位や納品間隔による積み増しを分ける。仕入債務は、見込み仕入額だけでなく、支払期限の変更を反映する。例えば仕入額が増えても支払日を早めれば、買掛金残高は売上と同じ割合では増えない。三つを別々に予測して初めて、増加後の運転資金を計算できる。
予測の期間もそろえる必要がある。月商を使うなら、売上債権は月間の掛売上と回収までの月数、仕入債務は月間の仕入額と支払いまでの月数を対応させる。在庫の見込みは、数量だけでなく仕入単価の変化も金額に反映する。この作業を省いて三つの残高を一律に売上倍率で増やす方法は、取引条件が変わらない場合の試算に限られる。
同じ基準から三つの条件を比べる
以下は計算のための仮定例で、実在企業の数値ではない。単位はすべて万円とする。増加前の月商を1000、売上債権を1000、棚卸資産を600、仕入債務を500と置くと、運転資金は1000+600-500=1100になる。三つの条件は同時には起こさず、同じ増加前の状態からそれぞれ計算する。
- 項目|増加前|売上1.5倍|入金サイトだけ延長|在庫だけ増加
- 月商|1000|1500|1000|1000
- 売上債権|1000|1500|1500|1000
- 棚卸資産|600|900|600|900
- 仕入債務|500|750|500|500
- 運転資金|1100|1650|1600|1400
- 増加運転資金|基準|550|500|300
売上1.5倍の列では、掛け売りの割合、回収期間、在庫の保有水準、仕入れと支払いの条件が変わらず、三つの残高が同じ倍率で増えると仮定した。増加後は1500+900-750=1650で、追加額は1650-1100=550となる。売上債権と在庫の増加額を足した800をそのまま必要額とすると、増えた仕入債務250を差し引き忘れる。
入金サイトだけ延長する列は、月商を1000に保ったまま、売上債権が月商の1カ月分から1.5カ月分へ増える仮定だ。在庫と仕入債務は変わらないため、追加額500は未回収額の増加分に一致する。売上が横ばいでも、回収が遅くなるだけで資金の拘束が大きくなる。
在庫だけ増加する列では、棚卸資産を600から900にし、月商、売上債権、仕入債務は固定した。追加額は300となる。同じ在庫増でも、仕入先への未払額が増える条件なら結果は変わるため、発注量の変更と支払条件の変更を一つの入力として扱わない。
不足する金額と時期は入出金で決まる
前後の貸借対照表から求めた差額は、増加後の事業を支えるために追加で拘束される資金の目安だ。実際にいつ現金が不足するかは、入金日と支払日を並べなければ分からない。J-Net21の資金繰りの解説も、黒字でも資金が不足し得ることを踏まえ、入出金の額と時期を資金繰り表で把握する必要性を示している。
まず手元の現預金から、事業を続けるために残す最低額を引く。仮に現預金が300、最低残高が200なら、追加需要に充てられる額は100だ。ほかの入出金がなく、三つの列の追加額がそのまま現金の純支出として現れるという仮定では、使える100を超える部分は売上1.5倍で450、入金サイト延長で400、在庫増加で200となる。これは条件をそろえた比較値であり、その日に一括して借りる額ではない。
不足が始まる時点を見るには、得意先ごとの入金予定、仕入先ごとの支払日、在庫を買い増す日を時系列に置き、現金残高を順に更新する。仮に売上1.5倍の列に対応する純支出550のうち200が第1週、残る350が第3週に生じ、その間に追加の入金がなければ、使える100を超えた第1週に不足が始まる。第3週の不足は合計450となる。この条件では、最初の支払いに間に合う資金と、その後の支払いに必要な資金を分けて見積もれる。
追加需要をそのまま借入額にしない
三つの残高から出した増加運転資金には、給与、税金、既存借入の返済、設備購入などの支払いは含まれない。一方、前受金や既存の売掛金の回収が同じ期間に入れば、手元資金を補える。必要な調達額は、追加需要だけでなく、こうした入出金と維持したい最低現金残高を反映した資金繰り表の最低残高から決まる。
成長後も売掛金や在庫が高い水準で残るなら、追加の資金需要も一時の支払いで終わらない。反対に、在庫を販売して代金を回収し、増えた債権と在庫が元の水準へ戻る計画なら、資金が拘束される期間は限られる。調達期間を考える際には、支払いの最初の山だけでなく、増加後の三つの残高がいつ解消する見込みかまで対応させる。
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