
黒字でも返済できない、DSCRは元金と利息を分母に置く

内閣府の用語集が示すDSCRの式は「元利支払前キャッシュフロー÷元利支払予定額」で、1倍を下回れば、その年度に事業が生む現金だけでは元金と利息の支払いを賄えない。分母を利息だけにすると、元金返済が始まる年度の負担を見落とす。
損益が黒字でも、返済期日に必要な現金が足りるとは限らない。環境省の金融機関向け手引きは、倍率が高いほど元利金の支払い能力が高いと説明し、小水力発電事業については長期計画が黒字でも返済期間中に一時的な資金不足が起こり得ると指摘している。返済余力を見るには、営業利益をそのまま使わず、返済前の現金と返済予定額を同じ年度ごとに対応させる。
分子は営業利益ではなく返済前の現金
まず計算の対象をそろえる。特定の事業に対する借入れを測るなら、その事業が生むキャッシュフローと、その借入れの元利支払予定額を組み合わせる。会社全体の返済余力を測るなら、全社の返済前キャッシュフローと、対象に含める借入れの返済額を対応させる。事業単位の現金を全社の返済額で割ると、何の負担を測った倍率なのか曖昧になる。
売上や営業利益は現金の残高とは異なる。売上を計上しても入金が翌年度なら、当年度の支払いには使えない。売掛金の増加や在庫の積み増しによって資金が拘束される一方、仕入れ、人件費、税金、必要な設備の維持更新には現金が出ていく。返済前キャッシュフローの見込みには、こうした入出金の時期を反映する。
営業利益から概算を始める場合、減価償却費のようにその期の支出を伴わない費用は調整できる。ただし、減価償却費を足し戻した金額がそのまま返済に使えるわけではない。売掛金が増えたり設備の更新費用が生じたりすれば、利益が出ていても返済原資は減る。元金返済は損益計算書の費用として営業利益を減らさないため、黒字と返済可能額を同一視すると負担を過小評価する。
分子の時点は元金と利息を支払う前にそろえる。利息を差し引いた後の現金収支を分子に置き、分母にも同じ利息を含めれば、その支払いを二重に数えることになる。資金計画が返済後の残額だけを示している場合は、差し引かれた元金と利息の範囲を確かめ、対応する返済前の金額に戻してから計算する。
分母は返済予定表から年度別に作る
分母には、対象年度に支払期日が来る元金と利息を合計する。毎月返済なら各回の元金と利息をその年度に割り当て、複数の借入れを含めるなら同じ期間の支払いを足す。借入初年度や最終年度は返済回数がほかの年度と違うことがあるため、通常の月額を一律に12倍するより、支払日ごとの予定額を集計したほうが期間を正確にそろえられる。
日本政策金融公庫の事業資金用返済シミュレーションでは、元金据置期間を条件に設定でき、試算結果を年数別の「返済額元利計」「うち元金」「うち利息」に分けて表示する。個別の借入れを計算するときは、試算上の目安ではなく、実際の契約条件を反映した返済予定表を使う。
元金据置中は、元金の支払いが後の期間に移る。その間の分母は利息中心でも、据置が終われば元金が加わるため、事業が生む現金が同じでもDSCRは下がり得る。借入直後の年度だけを見ず、元金返済の開始年度と、その後に支払額が大きくなる年度まで並べる必要がある。
分子を4月から翌年3月までの現金収支とするなら、分母にもその間に期日が来る元金と利息を入れる。暦年の支払額と決算年度の現金収支を混ぜると、別の期間に生む現金で返済を賄う計算になる。据置終了の前後では、期間のずれだけで不足する年度を見失いやすい。
元金据置の終了後、単年度の不足を計算する
次は計算方法を示すための仮定の例であり、実際の融資案件ではない。借入元金を2000万円、年利を5%とし、1年目は元金を据え置く。2年目と3年目の末に元金を1000万円ずつ返し、利息は各年の期首残高に対して計算する。元利返済前キャッシュフローは順に900万円、900万円、1100万円と仮定する。
- 1年目は元金0万円と利息100万円で、元利支払額は100万円。DSCRは900÷100=9.00倍。
- 2年目は元金1000万円と利息100万円で、元利支払額は1100万円。DSCRは900÷1100=約0.82倍。
- 3年目は元金1000万円と利息50万円で、元利支払額は1050万円。DSCRは1100÷1050=約1.05倍。
1年目から2年目にかけて返済前キャッシュフローは900万円のままだが、据置終了によって元利支払額は100万円から1100万円へ増える。2年目のDSCRは約0.82倍となり、その年度に生む現金だけでは200万円不足する。現金収支の悪化を仮定しなくても、返済条件の切り替わりによって単年度の不足が生じる。
3年間の返済前キャッシュフローは合計2900万円、元利支払額は合計2250万円で、合計額同士の比率は約1.29倍になる。年度ごとのDSCRを単純平均すると約3.62倍だ。いずれも期間をまとめた数字であり、2年目の期日に必要な200万円がその年の事業収入からは出ないことを表さない。返済の山を見つけるには、各年度の倍率と差額を別々に残す。
1倍割れは返済原資の不足を示す
DSCRが1.00倍なら、対象年度の返済前キャッシュフローと元利支払予定額が等しい。1倍を超えても、予想より入金が遅れたり支出が増えたりしたときに使える余白は、その年度の現金と返済額の差額に限られる。倍率を見るときは、どの年度の数字かとともに、差額がいくらあるかも確認する。
一方、単年度で1倍を割っても、直ちに支払いが滞ると決まるわけではない。仮定の例で1年目の返済後に現金を残していれば、2年目の不足を手元資金で補える可能性がある。ただし、それは2年目の事業が生む現金だけで2年目の返済を賄えたことを意味しない。年度の返済余力を示すDSCRと、期首の現預金や確保済みの返済資金は分けて扱う。
前年の余剰を翌年の返済に充てる計画なら、その資金が追加投資、配当、ほかの借入れの返済に使われず残るかが重要になる。年度末の残高が足りても、元利金の支払日より後に売掛金が入金されるなら、その支払いには間に合わない。年度別のDSCRが不足の年を示し、支払日と現金残高の見通しが実際に埋められる不足かどうかを示す。
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