AIで減る仕事、増える仕事――米国の2035年予測が示す明暗

米労働統計局(BLS)は2026年8月27日、米国の2025~2035年雇用予測を公表した。BLSの公式発表 では、総雇用が1億7030万人から1億7620万人へ590万人、3.5%増える一方、事務・管理支援職は75万2100人減り、AI関連需要が見込まれる専門・科学・技術サービスは92万6700人増える。
翌28日の Axiosの雇用予測報道 も、AIと自動化が事務職の需要を抑える一方、専門サービスの雇用を押し上げるという対照を確認した。ただし、新たな仕事の最大の受け皿はAI分野ではなく医療・社会扶助であり、在宅医療・介護補助職だけで84万7300人の純増が予測されている。
事務職は定型業務の省力化で縮小する

22の主要職業群で最大の減少が予測されたのは、事務・管理支援職だ。2035年までの減少率は4.0%で、生成AIや自動化ツールによる反復作業の高速化が、複数の事務職に対する需要を弱めるとBLSはみている。
対象となりやすいのは、入力、転記、定型文書の作成、情報の照合など、手順を標準化しやすい作業である。販売関連職も1.4%減、生産職も0.4%減る見通しで、電子商取引やAIを組み込んだ営業工程、自動機械の普及が雇用を抑える要因に挙げられた。芸術、デザイン、娯楽、スポーツ、メディアでも、生成AIによる生産性向上が一部職種の需要を制限する可能性がある。
ただし、純減は現職者が同じ人数だけ解雇されるという意味ではない。職業群全体の基準年と予測年を比べた差であり、退職や転職による補充求人は別に発生する。同じ職種でも、顧客との調整、例外処理、説明責任を伴う業務まで一様に消えるとは予測されていない。
AI需要は専門職とインフラの雇用を押し上げる

AIは雇用を減らすだけでなく、システムを開発、改善、導入する仕事の需要も生む。専門・科学・技術サービスは8.6%増え、純増数では主要産業部門中2位になる見通しだ。ここにはAIシステムそのものに加え、研究開発や関連コンサルティングへの需要が含まれる。
コンピューター・数学職は全体で7.3%増える。データサイエンティストは34.6%増、コンピューター・情報研究科学者は21.8%増と予測され、データの整備や分析、業務への実装、意思決定への利用を担う人材が必要になる。コンピューティング基盤、データ処理、ウェブホスティングなどの産業も25.1%、12万400人増える見込みだ。
波及はIT企業の中にとどまらない。AI導入とデータセンターの増設に伴う電力需要を背景に、公益事業は9.8%増える一方、基礎となる雇用規模が小さいため純増は5万8800人にとどまる。成長率の高さと、実際に増える雇用の数は分けて見る必要がある。
増加率と純増数では「伸びる仕事」が変わる
職種別の将来性は、増加率だけでは測れない。BLSデータを整理した CNBC-eの職種別一覧 から2025年と2035年の雇用数を比較すると、比率の順位と純増規模の違いがはっきりする。
- ナースプラクティショナー:33万6300人から47万4100人へ41.0%増え、純増は13万7800人。
- データサイエンティスト:27万5600人から37万1000人へ34.6%増え、純増は9万5400人。
- 太陽光発電設備設置者:3万1100人から4万2400人へ36.5%増えるが、純増は1万1300人。
- 風力タービン整備技術者:1万1800人から1万5300人へ29.5%増え、純増は3500人。
- 在宅医療・介護補助職:増加率の最上位ではないが、純増は84万7300人で個別職種中最大。
再生可能エネルギー職は高い伸び率を示すものの、現在の市場が小さいため増加人数は限られる。反対に、既に大きな雇用基盤を持つケア職は、比率が首位でなくても数十万人規模で増える。2035年の雇用機会を比べるには、増減率、純増数、需要を支える要因を同じ尺度に置く必要がある。
最大の純増は高齢化が動かすケア分野

主要産業部門で最も多く雇用が増えるのは、民間の医療・社会扶助である。2035年までに9.5%、220万人超増え、米国全体の新規雇用の約37%を占める。高齢化に加え、心疾患、がん、糖尿病などの慢性疾患に対応する診断、治療、生活支援の需要が成長を支える。
職業群では医療支援職が13.3%、医療専門・技術職が8.0%増え、両者で新たに増える雇用のほぼ3分の1を占める。身体介助、患者の観察、チーム医療、地域での対人支援は、情報処理を速めるだけでは置き換えにくい。一方、記録作成や予定調整など、ケア職に付随する定型業務にはAIが入り、職種が残っても仕事の構成は変わり得る。
これらは米国の予測であり、人数を日本の求人見通しへ直接置き換えることはできない。人口構成だけでなく、資格制度、医療財政、業務分担、雇用慣行が異なるためだ。日本のキャリア選択に引き寄せて読めるのは、定型的な情報処理への需要が縮む一方、AIを構築・運用する専門性と、対人ケアの需要が同時に強まるという構造である。
AI曝露度は失業確率を示さない
BLSは今回、2025~2035年予測を補完する新データとして、詳細職種をAIへの相対的な曝露度で「低い」「中程度」「高い」「非常に高い」の4カテゴリーに分類した。三つの理論的な曝露指標と、ClaudeやMicrosoft Copilotの利用データを職務へ対応させた二つの観測指標を統合している。ただし、観測指標は各職種の労働者が職場でAIを使ったかを直接測ったものではない。
BLSのAI曝露カテゴリー解説 は、曝露度を雇用の増減、労働者の代替確率、賃金、生産性、AI導入確率の予測として解釈してはならないと明記する。曝露度が高い職種でも、AIによる能力拡張や新たな需要によって雇用が増える場合があり、データサイエンティストの成長予測はその違いを示している。
雇用予測そのものにも、10年先を一点の数値で示す限界がある。BLSは正確な人数より、変化の方向と相対的な大きさを重視するよう求めている。今回示されたのは、事務の縮小、技術・ケアの拡大、既存職務の再編が並行する基準シナリオであり、AIの性能、企業の導入速度、法制度、景気や人口動態が変われば結果も動く。次の2026~2036年予測は2027年に公表される予定だ。
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