
APECがギグ労働者の保護を議題化、AI訓練だけでは足りない

APECの人材開発担当相は2026年9月21日、中国・南京で開かれた第8回会合で、AIによる雇用変化への対応や再訓練とともに、ギグ・契約労働者を含む新しい働き方の保護を議題にした。翌22日に公表された APECの会合報告 は、求人とのマッチングや技能需要の予測にAIを生かす構想と、労働者保護の強化を併せて伝えている。
会合では共同声明が採択された。韓国雇用労働部の 9月21日の発表 も、南京で各エコノミーの代表が雇用、職業訓練、社会保障を柱とする声明を採択したと確認している。合意したのは政策の方向であり、ギグ労働者向けの共通保険や、域内で自動的に通用する資格制度が発足したわけではない。
共同声明は保護を雇用政策の柱に置いた
採択された 南京共同声明 は、質の高い雇用、人への投資と職業訓練、社会保障制度の強化を主要な柱に据えた。AIなどの技術革新と人口構成の変化が同時に労働市場へ影響するという認識の下、仕事に必要な技能と、働く間の保障を一つの政策課題として扱っている。
労働者の権利に関する部分は、非標準雇用や新しい雇用形態で生じる課題に各エコノミーが国内で取り組み、労働上の保護と社会的保護を強めると明記した。労働安全衛生、社会的保護へのアクセス、安定性や公正さを備えた就業環境も挙げている。従来型の雇用契約だけを前提にせず保護を考える点が、今回の声明の要点だ。
ただし、声明はギグ労働者の法的地位を域内で統一していない。プラットフォーム、仕事の発注者、働く本人が保険料をどう分担するかも規定していない。「保護を強める」という合意を個人の新たな受給権に変えるには、各エコノミーの法律や制度で対象者、負担、給付条件を定める必要がある。
AIの役割は求人マッチングだけではない
雇用政策では、AIを使って求職者と求人を結び付け、新しい職業や将来の技能需要を把握することが議論された。対象は、すでに存在する求人を効率よく紹介する作業に限らない。仕事の内容が変わり始めた段階で必要な技能を捉え、職業訓練や転職支援に反映させる構想だ。
共同声明は、技術導入に伴う職業、作業内容、知識、技能の変化を追い、職業基準を更新するよう促している。これは「AIを学ぶ人を増やす」という目標より具体的だ。例えば同じ職業名が残っても、実際に担当する作業が変われば、訓練で教える内容や経験の評価方法も見直す必要が生じる。これは声明の政策表現から導かれる論点であり、特定の職業で変更が決まったという意味ではない。
AIの利用先には雇用サービスのほか、社会保障の運営も含まれる。そこで問われるのは、支援を必要とする人を見つけやすくする利点と、個人データの扱いをどう両立させるかだ。共同声明はデータ保護、透明性、適切な人の監督に触れているが、具体的な審査手順や共通のAI運用規則は定めていない。
再訓練と資格認証は別の段階にある
技能政策で確認されたのは、職業生活を通じて学び直せる仕組みを広げ、訓練を産業界の需要に合わせる方向だ。職場での学習、継続教育、従来の職業と新たな職業の双方における質の高い実習も挙がった。AI関連の講座を一度受ければ職業転換が完了する、という設計にはなっていない。
デジタル技能とAIリテラシーを広げる方針に加え、雇用支援や訓練へのアクセスでは障害のある人にも焦点を当てた。技能需要を予測できても、必要な人が訓練を受けられなければ、その予測は職業転換の支えにならない。訓練機関や企業との連携、受講機会の確保が政策に含まれる理由はここにある。
資格については、職業基準や資格をエコノミー間で認められやすくすることが会合で議論された。一方、採択文書にあるのは技能の認知、職業基準の研究、訓練・認証機会を広げるための協力である。共通資格の創設や既存資格の一律の相互承認が決まったとまでは読めない。どの技能をどの基準で評価し、別のエコノミーの資格とどう対応させるかは、今後の協力に残る。
この区別は、短い契約を重ねて働く人にも関わる。経験を次の仕事で示せるようにすることと、仕事が途切れたときに所得保障を受けられることは、異なる制度上の問題だからだ。資格認証が進んでも社会保障の加入条件が変わらなければ、職業を移る間の生活上のリスクは残る。
社会保障を多様な働き方へどうつなぐか
社会保障については、高齢化と雇用形態の多様化に制度を適応させ、国内法上の受給資格がある人に給付を届けやすくする方針が示された。これは、すべてのギグ労働者に同じ給付を約束する文言ではない。まず既存制度の対象となる人が利用しやすい仕組みを整え、各地の制度が新しい働き方にどう対応するかを検討する内容だ。
高齢化は給付へのアクセスに加え、年金や社会保険を持続させる費用の問題も生む。共同声明は、社会保険で将来の費用とリスクを見通す能力や、社会保障政策と雇用・経済政策の連携を重視している。対象を広げる方針だけでなく、その運営を支える行政能力も必要だという整理である。
日本との接点も、直ちに国内法が変わることではない。AIで変化する職務を把握する方法、学び直した技能を示す方法、雇用形態が変わっても保障へつながる条件をどう設計するかが、それぞれ国内で問われる。南京会合は三つを同時に政策課題へ載せたが、日本を含む各エコノミーの制度改正内容までは決めていない。
今後の焦点は、職業基準や資格認証に関する協力が具体化するか、非標準雇用の人が社会保障を利用しやすくなる制度が各地で整うかにある。現時点で共同声明に統一制度の開始時期や達成指標はない。確認できるのは、AI時代の雇用への対応を再訓練だけで完結させず、仕事の変化の把握と労働者保護も並行して進めるという合意である。
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