
AI求人比率は職種で10倍超、世界27カ国の需要は一様でない

米国の人事団体SHRMは2026年9月22日、27カ国のIT・コンピューター科学分野の求人を分析し、AIスキルへの言及が全対象国で増えた一方、職種別の国別中央値はデータ分析・数学職の55.1%とネットワーク・システム支援職の4.7%で10倍超開いたとする調査結果を公表した。比較しているのは採用人数ではなく、求人広告にAIスキルが記載された割合だ。
対象となる求人は2025年7月から2026年6月までの掲載分で、前年の同じ長さの期間と比較された。国ごとに比率が上がっていても、応募先の職種によってAIが仕事の中心にある場合と、求人要件にほとんど現れない場合がある。日本から海外のIT人材市場を見る際には、国全体の順位と志望職種の要件を分けて捉える必要がある。
国別では米国が高く、伸び幅は南米で目立つ
調査期間中、AIスキルに触れた求人の国別平均は米国が28.5%で最も高く、カナダ28.1%、アルゼンチン27.4%、シンガポール27.3%、アイルランド26.4%が続いた。オーストリアは7%だった。上位国だけを見ても比率は近接しているが、対象国全体に広げると水準には大きな開きがある。
水準の高さと増加の速さも別の話だ。前年の比較期間からの上昇幅はアルゼンチンが15.5ポイント、チリが13.1ポイントで、対象国の中でも大きかった。米国の求人でAIへの言及が多いという事実から、最も速く変化している市場も米国だとは言えない。displacement.aiの分析も、この国別比率をIT・コンピューター科学職の募集要件として扱い、採用実績とは区別している。
集計にはLightcastが収集した有効な求人広告が使われた。国ごとの産業構成や募集する職種の構成が異なれば、同じ「IT求人」の平均でも中身は変わる。したがって、国別比率は市場の広がりを示す一方、特定の雇用主がどの技術を必須とするかまでは示さない。
職種の差は、国の順位より学習対象に直結する
職種別の開きが大きいのは、AIが担う作業との距離が違うためと考えられる。データ分析・数学職では、データから予測や分類を行う技術が職務に入りやすい。一方、ネットワーク・システム支援職の求人では、AIスキルへの明示的な言及が少ない。先の倍率は各職種について算出した国別比率の中央値同士を比べたもので、日本国内の職種間で測った倍率ではない。
さらに細かい職種では、AIエンジニアの求人の93%、データサイエンティストの75%がAIスキルに言及した。データ分析・数学職という広い職種群の中央値と、こうした個別職種の比率を同じ指標として並べることはできない。それでも、AIを作る仕事とIT基盤を支える仕事で募集要件が大きく違うことは読み取れる。
転職者にとって、この差は学ぶ技術の深さを考える材料になる。モデルの構築や評価を担う職種なら、データの準備から結果の検証までを説明できる経験が求人要件に近い。ネットワークやシステムの支援職なら、まずその職務で求められる運用能力を押さえ、AIへの言及がある募集では具体的にどの作業へ使うのかを見たい。これは求人比率から導く優先順位であり、採用されやすさを測った結果ではない。
「AI」の記載だけでは、生成AIの経験を意味しない
技術名にも濃淡がある。AI関連の求人では、人工知能を広く指す表現が60.3%に現れた一方、生成AIへの言及は15.3%、AIエージェントへの言及は13.9%だった。一般的な「AI」という記載を、生成AIやエージェントの開発経験を求める指定と同一視すると、仕事の内容を読み違える。
生成AIが明記された募集でも、既存のツールを業務で使う役割と、生成する仕組みを開発する役割では必要な技能が異なる。AIエージェントという語がある場合も、作業を連携させる設計を担当するのか、既存の仕組みを運用するのかで準備すべき経験は変わる。求人の用語だけでは実装水準は決まらず、担当する工程と期待される成果を合わせて読むことになる。
専門技術としては、クラウド基盤に加え、PyTorchやTensorFlowも需要の高いAIスキルに含まれた。クラウドの経験は計算環境や運用との接点を、機械学習のフレームワークはモデルの構築や評価との接点を示し得る。ただし、名称を知っていることと業務を担えることは別だ。たとえばモデル開発職なら評価方法まで、運用職なら既存システムのどの部分を扱ったかまで示すと、応募先の仕事との対応が具体的になる。
対人能力の記載にも国ごとの違いがある
AI関連のIT・コンピューター科学求人で社会的スキルに触れる割合は、オーストラリアの5.7%からフランスの34.3%まで開いた。カナダは高度な技術的能力と社会的スキルの両方への需要が比較的強い市場として挙げられている。AI技術が求められる求人でも、成果を説明し、関係者と判断を共有する役割の示され方は国によって異なる。
社会的スキルは、技術的な作業と切り離された飾りではない。分析結果の限界を依頼者に伝える、生成物の誤りを関係者と修正する、といった仕事では技術と対話が同時に必要になる。ただし、国別の記載率は求人文面の傾向であり、各社が面接で何を重視するかを直接測った数字ではない。応募する職種の業務に対人面の責任が含まれるかが、より近い手掛かりになる。
米国の新卒採用では、技術を使った成果も問われる
求人広告に表れる需要の増加と、経験の浅い人が仕事を得る難しさは同時に起きている。米国の新卒市場を追ったAPの取材では、コンピューター科学・コンピューター工学系の新卒者の失業率は約7.1%とされ、米計算機研究協会のトレーシー・キャンプは「If they don’t change how hiring is currently happening, they’re not going to have mid-level career people in a few years」と語った。AIスキルに言及する求人が増えることは、新卒向けの入口が同じ割合で増えることを意味しない。
APが取材したジャック・ゼムケは、在学中に共同制作したAI検索ツールを工学系の会議で紹介し、土木エンジニアリング企業との接点を得た。これは一人の就職例だが、使った技術の名前だけでなく、制作物とその用途を伝えられた点が具体的だ。大学側もAIツールの教育を強めるとともに、受け入れ企業の仕事に合わせた実習を試みている。
日本から海外の求人を検討する人にとっても、データ分析、開発、運用支援では示すべき仕事の成果が異なる。AIへの言及が多い職種ほど、技術を選んだ理由、得られた結果、結果をどう確かめたかが問われやすい。国別の上昇率をそのまま個人の就職機会に置き換えるのではなく、募集されている仕事と自分が示せる成果の距離が、転職時の実質的な論点になる。
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