コンバーティブル調達、キャップと割引は同時に効くとは限らない

|著者: QUASA編集チーム|2 分で読めます| 1
コンバーティブル調達、キャップと割引は同時に効くとは限らない

コンバーティブル・エクイティで割引とバリュエーションキャップを併用する場合、それぞれから転換価額を計算し、低い方を採る設計が一般的だ。AZXのJ-KISS解説は、この選択方法に加え、プレキャップとポストキャップで持分の計算が異なることを説明している。割引後の価格をさらにキャップで値引きする計算ではない。

割引は次回ラウンドで新規投資家が払う株価に、キャップは契約で定めた評価上限に結び付く。投資家の取得株数は投資額を採用された転換価額で割って求めるため、低い価格を作る条件ほど創業者の持分を薄める。同じ金額のキャップでも、転換前と転換後のどちらの株数を基準にするかで結果は変わる。

割引価格とキャップ価格は何を基に計算するか

割引価格は、次回ラウンドの新株発行価額に所定の割合を掛けたものだ。「20%割引」なら株価に80%を掛ける。BUSINESS LAWYERSの法律解説も、次回株価に0.8を掛ける転換価額の例と、投資額をその価額で割る株数の計算を示している。「20%引き」と「株価の80%」は同じ条件を表すが、契約書に書かれた割合が値引き幅なのか、株価に掛ける率なのかは区別が必要だ。

キャップは、次回ラウンドの評価額が高くなったときにも、先行投資家が取得する株数や持分を確保するための条件だ。比較の対象はキャップ額そのものではなく、そこから導いた1株当たりの転換価額になる。次回ラウンドの調達額とキャップ額を直接比べても、どちらの条件が適用されるかは分からない。

割引価格は次回株価が上がれば一緒に上がる。一方、キャップから計算する価格は、契約で定めた上限額と計算に含める株数に左右される。次回株価が高い場合はキャップ価格が低くなりやすいが、境目は割引率だけでは決まらない。プレキャップかポストキャップかもそろえて比較する必要がある。

同じ調達条件で三つのケースを比べる

以下は仕組みを示す仮定の例である。創業者が普通株式9,600株をすべて保有し、ほかの株主、ストックオプション、転換証券はない。先行投資家の投資額は2,000万円。次回ラウンドの新株発行価額を1株10万円、割引を20%、キャップを5億円のポストキャップとする。既存の9,600株だけに次回株価を掛けた参考評価額は9億6,000万円だ。

割引から計算する転換価額は、10万円×80%=8万円となる。ポストキャップが適用される場合、先行投資家の次回ラウンド直前の持分は2,000万円÷5億円=4%。創業者の9,600株が残りの96%に相当するので、先行投資家の取得株数は9,600株÷96%×4%=400株、転換価額は2,000万円÷400株=5万円だ。この例では、5万円が8万円より低い。

  • 割引のみ:転換価額は8万円。先行投資家は2,000万円÷8万円=250株を取得する。
  • ポストキャップのみ:転換価額は5万円。取得株数は400株となる。
  • 両方を併用:8万円と5万円を比べ、低い5万円で転換する。取得株数はキャップのみの場合と同じ400株となる。

併用したケースで、400株に割引相当の株式を追加することはない。先行投資家の投資額も、創業者の既存株数も三つのケースで同じだ。変わるのは転換に使う1株当たりの価格であり、その違いが250株と400株の差になる。

創業者持分はいつの株数で比べるか

先行投資家の転換直後、次回ラウンドの新株を発行する前なら、割引のみの総株数は9,850株だ。創業者持分は9,600株÷9,850株=約97.46%となる。キャップのみ、または両方を併用した場合は総株数が1万株で、創業者持分は96%。キャップが適用される方が先行投資家に150株多く渡る。

次に、同じ株価10万円で新規投資家から2億円を調達し、2,000株を発行すると仮定する。割引のみなら総株数は1万1,850株、創業者持分は約81.01%。キャップのみと併用では総株数が1万2,000株、創業者持分は80%になる。先行投資家への発行株数の差は、新規投資家が加わった後にも約1.01ポイントの持分差として残る。

ポストキャップから求めた先行投資家の4%は、この2,000株を発行する前の比率だ。新規株式の発行後は、先行投資家の400株が総株数1万2,000株に占める割合は約3.33%になる。「ポスト」が指すのは先行投資家への転換後であり、次回ラウンドの新規投資家まで加えた後ではない。この時点の違いを混ぜると、同じ株数から異なる持分比率を読んでしまう。

次回株価が変わると、適用される条件も入れ替わる

仮定の例で、ポストキャップから求めた価格は5万円、割引価格は次回株価の80%だ。二つが等しくなる次回株価は5万円÷80%=6万2,500円。既存9,600株だけを基準にした参考評価額では6億円に当たる。次回株価がこの境目を上回ればキャップ価格が低く、下回れば割引価格が低い。

例えば次回株価だけを5万円に変え、ほかの条件を据え置く。割引価格は5万円×80%=4万円となり、キャップ価格の5万円を下回る。両方を定めていても先行投資家は割引価格で転換し、2,000万円÷4万円=500株を取得する。割引のみの場合と同じ株数だ。元の例ではキャップが適用されたが、次回株価が変わるだけで採用する条件は逆になる。

この境目は、創業者にとって希薄化の見え方も変える。次回株価が上がり、割引価格がキャップ価格を超えれば、先行投資家の取得株数はこの例では400株にとどまる。割引だけを想定すると、株価の上昇に伴って先行投資家の株数が減り続けるように見えるが、キャップが適用される範囲ではそうならない。

同じキャップ額でもプレとポストでは持分が違う

J-KISSのひな形を提供するCoral Capitalは、J-KISS 2.0の公開説明で、バリュエーションキャップを従来のプレベースからポストベースに変更したと述べている。ポストキャップでは、キャップが適用される場合、先行投資額をキャップ額で割った比率を次回ラウンド直前の持分として捉える。先ほどの4%と400株は、先行投資家が一人という単純な前提でその関係を計算したものだ。

同じ仮定の投資額2,000万円、既存9,600株、キャップ5億円をプレキャップとして扱うと、キャップ価格は5億円÷9,600株=約5万2,083円になる。取得株数は2,000万円×9,600株÷5億円=384株だ。割引価格の8万円より低いため、両方を定めてもプレキャップ価格が採用される。ポストキャップの400株との差は、キャップ額ではなく、転換で増える株式を計算にどう織り込むかから生じる。

同じく新規投資家に2,000株を発行した後、プレキャップの場合の創業者持分は9,600株÷1万1,984株=約80.11%となる。ポストキャップの場合は80%だ。同じ「5億円キャップ」という表示だけでは、創業者に残る持分を一つの数字に確定できない。

実際の転換では、ストックオプションなどの潜在株式、ほかの転換証券、端数処理を契約上の計算に反映する。先行投資家が複数いれば、単独投資家の例と同じ分母をそのまま使えるとは限らない。割引とキャップの比較は1株当たりの価格で行い、持分比率は転換直後と新規株式の発行後を分けて示すことで、条件が創業者に与える差が明確になる。

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