
J-KISSかSAFEか、日本法人は登記と法的構造で選ぶ

日本法人のシード調達では、J-KISSと契約型SAFEの法的構造が、発行時の手続きを分ける。J-KISSは会社法上の新株予約権として登記と新株予約権原簿の管理を伴う。日本法準拠の契約型SAFEは将来の株式取得に関する合意であり、締結時に新株予約権の登記は生じない。
日本法人が公開ひな形に沿って国内投資家から調達し、新株予約権の発行手続きを進められるなら、J-KISS 2.0が検討の起点になる。海外投資家が契約型SAFEを求めるなら、登記を省ける一方、日本法人の株式へ転換する条件を個別に設計する必要がある。どちらを選んでも、投資額とキャップだけで希薄化や投資家の権利は決まらない。
登記される権利と、契約で管理する権利
J-KISSへの投資で受け取るのは、投資時点の株式ではなく新株予約権だ。会社は発行に必要な決議と割当てを行い、発行内容を登記し、誰がどの権利を保有するかを新株予約権原簿で管理する。投資家が株式を取得する前から権利の存在を記録する仕組みだが、登記だけを見ても、転換後の持分比率や投資契約上の追加権利までは計算できない。
Coral CapitalのJ-KISS公開ひな形は、現行版をJ-KISS 2.0とし、ひな形上の適格資金調達を1億円以上の株式調達と説明している。次の調達がこの条件に届くかどうかは、想定した時期に転換が起きるかに関わる。新株予約権を発行した時点と、それが株式に変わる時点を持分表で分けて扱う必要がある。
契約型SAFEでは、締結時に新株予約権原簿へ載せる権利を発行しない。その代わり、会社は投資家ごとの契約、払込額、キャップ、割引、転換条件、別途合意した権利を管理する。登記簿に契約の存在が現れないため、次回調達で発行済み株式だけを示すと、将来の株式発行による希薄化を見落とす。発行時の登記を省けることと、転換時の株式発行手続きがなくなることは同じではない。
同額・同じポストマネーキャップなら持分はどうなるか
比較のため、キャップによる転換が適用され、追加の条件変更がない場合を置く。J-KISS 2.0では、3000万円の投資と3億円のポストマネーキャップから、次の株式調達直前の投資家持分を3000万円÷3億円=10%と計算できる。J-KISS 2.0は、従来版のプレマネー方式からポストマネー方式へキャップの定義を変えた版だ。
日本法準拠の契約型SAFEにも同じポストマネー計算を採用し、投資額3000万円、キャップ3億円と仮定すれば、キャップから導く当初の持分目安は同じ10%になる。この条件では、J-KISSという名前だけを理由にSAFEより希薄化が大きいとは言えない。ただし、片方がプレマネー型だったり、割引価格のほうが転換価格に適用されたりすれば、同じ額面のキャップを並べるだけでは比較できない。
10%は、その後の株式発行を経ても保たれる比率ではない。仮に他の転換証券や新たなストックオプション枠がなく、次の株式調達で新規投資家に転換後の20%を発行すれば、従前の10%は8%になる。複数のJ-KISSやSAFEがある場合は、それぞれのキャップの定義と転換順序に加え、次回調達に合わせたオプション枠の増加も株数に反映させる必要がある。
MFNとプロラタ権は転換価格とは別に比べる
MFNは、後から入る投資家に有利な条件を与えた場合、先行投資家がその条件を取り込むための条項だ。J-KISS投資契約のMFNと優先引受権の設計では、後続調達の通知を受けた投資家が、契約変更や新株予約権の交換を請求できる構成が説明されている。後の条件が自動的にすべての先行契約へ書き込まれると考えると、通知や投資家の選択という手続きを見落とす。
プロラタ権に相当する優先引受権は、次の調達で追加出資を行う機会を与える。無償で持分を維持する権利ではない。対象となる投資家、追加出資の上限、どの調達で行使できるかを広く設定すれば、次回の新規投資家に割り当てられる株式にも影響する。転換価格を示す持分表とは別に、追加投資が実行された場合の株数を計算しておきたい。
海外投資家がSAFEを求めたときの書式
Y CombinatorのSAFE書式と条件説明は、2018年以降の標準をポストマネー方式とし、米国会社向けにキャップ型、割引型、キャップも割引もないMFN型を用意している。プロラタ権は任意の別途合意で扱う。米国外向けに公開されている書式はカナダ、ケイマン諸島、シンガポールの会社向けで、日本法人向けの標準書式は掲載されていない。
したがって、海外投資家から渡された米国会社向けSAFEに日本法人の社名を入れるだけでは、準拠法、転換時に交付する株式、必要な会社決議を整理したことにはならない。投資家が求めるのが契約型の権利なのか、ポストマネーの持分計算なのか、特定の追加権利なのかによって、必要な設計は変わる。ポストマネー計算が主眼ならJ-KISS 2.0も比較対象になり、契約型SAFEが条件なら日本法に合わせた条項と税務上の扱いについて専門家の確認が要る。
日本法人が選択を決める条件
国内のシード調達でJ-KISS 2.0のひな形と発行手続きを受け入れられる場合、登記と原簿管理の担当を確保したうえで同版を基準に比べられる。既発行のJ-KISSがあれば、その版とキャップがプレマネーかポストマネーかも重要だ。異なる版を混在させると、次回調達時の転換計算が複雑になる。
契約型SAFEを選ぶ理由が発行時の登記を避けることなら、その利点と引き換えに、契約を漏れなく管理し、日本法人で履行できる転換条項を作る作業が生じる。比較すべきなのは発行時の手続きだけでなく、同じ投資額を入れた転換後の持分、MFNによる条件変更、追加投資の権利まで含む資本構成だ。書式を変更する場合や海外投資家が参加する場合は、株式発行と税務の扱いを日本の弁護士・税理士と確認して選ぶのが妥当である。
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