
税制適格ストックオプション、後から直しても間に合わない

税制適格ストックオプションでは、付与対象者、当初の付与契約、権利行使の条件、取得株式の管理方法を一続きで確認する。当初の契約に適格要件が欠けていた場合、国税庁の契約変更に関する質疑応答が示すように、行使前に条項を補っても、株式取得時の経済的利益に特例は適用されない。
発行会社は付与決議と契約締結の前に条件を確定し、権利者は行使前に契約と実際の手続を照合する。適格なら行使時の経済的利益への課税は売却時まで繰り延べられる。非適格の無償付与型では、行使時の利益と売却時の利益を分けて扱うため、契約上の欠落は課税時点にも影響する。
付与決議前:対象者、期間、行使価額を決める
まず、誰にどの株式を取得する権利を与えるかを定める。役員や従業員という肩書だけでは適格性は決まらず、大口株主に当たるかも確認が要る。社外人材を対象にする場合は、通常の役職員への付与とは別に、対象者や発行会社に適用される制度上の条件を調べる。
EY Japanの要件整理によると、権利は無償で付与し、譲渡を禁止する。行使期間は原則として付与決議の日から2年経過後、10年経過日までで、設立5年未満の一定の会社では15年までとなる。年間の権利行使価額の上限は原則1,200万円だが、発行会社の設立後の期間など所定の条件に応じて2,400万円または3,600万円の枠がある。上限は付与株数ではなく、行使する年の権利行使価額で判定する。
1株当たりの権利行使価額は、付与契約を締結する時の株式価額相当額以上に設定する。未上場会社では、対象が普通株式なのか、種類株式なのかを明らかにしたうえで、評価の前提を残したい。優先株式による資金調達価格を、普通株式の価額としてそのまま使えるとは限らない。後で行使価額の根拠を説明できるよう、株式の権利内容と評価資料を契約案に結び付けておく。
- 付与対象者の資格と大口株主への該当性を確認する。
- 付与決議日を起点に行使期間を設定し、会社に適用される年間上限を判定する。
- 対象株式の種類と契約時の評価を確かめ、権利行使価額を決める。
契約締結時:当初契約に要件を落とし込む
決議案が整っていても、権利を与える当初の契約に必要な条件が定められていなければ足りない。決議と契約で、権利行使価額、期間、権利の譲渡禁止、年間上限、交付する株式の種類が一致しているかを見る。年間上限を書かずに締結し、行使時だけ上限内に抑えるという運用では、当初契約の欠落を埋められない。
株式の管理方法も契約時から具体化する。証券会社等で保管・管理する場合は、発行会社と保管先との事前の取決めに沿って株式を移す。譲渡制限株式について発行会社自身が管理する場合は、発行会社と権利者との取決めに沿った管理が必要になる。どちらを使うかで、行使後の株式の受渡しと記録の残し方が変わる。
契約変更には別の線引きがある。国税庁の課税Q&Aは、当初から適格な契約について、適格要件に関係のない事項や当初契約に反しない範囲での行使期間の変更を認めている。一定の条件を満たす行使価額の引下げも扱うが、変更後の価額が付与決議に反するなら決議の変更が必要だ。こうした取扱いを、最初から非適格だった契約に欠けた要件を追加する場合へ広げて考えることはできない。
- 締結前に、決議と契約の条件を項目ごとに突き合わせる。
- 取得株式を誰が、どの事前の取決めに基づき管理するか決める。
- 変更の必要が生じたら、当初契約の適格性と変更後の行使が元の条件に沿うかを分けて判断する。
権利行使前:契約どおりに行使できるか確かめる
行使前の確認は、当初の契約を適格に作り替えるためではなく、その契約に従った行使が可能かを判断するために行う。決議日を起点とした期間、行使する年の価額の累計、1株当たりの払込額、交付される株式を照合する。分割して行使する場合は、今回の払込額だけでなく、その年にすでに行使した額も合算する。
交付経路も同時に確認する。契約上は証券会社等での保管を予定しているのに、株式が別の経路で権利者へ渡る設計なら、契約文言と実際の管理が食い違う。発行会社による管理を選んだ場合は、交付される株式が譲渡制限株式であり、事前の取決めに沿って管理できるかを見る。
非適格と判明した場合、国税庁の非適格ストックオプションの説明は、行使時の株価と権利行使価額の差を行使時の所得として示す。雇用関係に基づく付与なら通常は給与所得となり、発行会社と権利者の関係によっては事業所得や雑所得となる。適正な時価で有償取得した権利など、設計の異なるものに無償付与型の扱いをそのまま当てはめない。
給与所得となる無償付与型では、行使による株式交付時に発行会社の源泉徴収が問題になる。権利者は行使価額だけでなく、行使時の株価、取得株数、所得区分を把握しておく必要がある。株式がまだ売れていなくても行使時に課税関係が生じるため、納税資金の見通しも行使前に立てたい。
- 契約と決議に照らし、期間、年間累計額、払込額、交付株式を確認する。
- 株式の交付から保管・管理までの経路を確定する。
- 非適格なら行使時株価と取得株数を記録し、所得区分と源泉徴収の扱いを確認する。
株式売却時:適格株式の取得費は行使価額
適格ストックオプションで取得した株式を売るとき、取得費は行使時の時価ではなく権利行使価額を基にする。国税庁の適格株式の譲渡に関する説明は、行使時に繰り延べた経済的利益とその後の値上がり益を、売却時に株式等の譲渡所得等として申告分離課税の対象にするとしている。行使時の時価を取得費にしてしまうと、繰り延べた利益を売却時の計算から落としてしまう。
非適格の無償付与型では、行使時の経済的利益を先に課税対象として捉えるため、売却時は売却価格と行使時株価との差を計算する。適格と非適格では、同じ株式の売却でも取得費の起点が異なる。複数の契約や行使に由来する株式を持つなら、売却した株数をそれぞれの行使記録に対応付ける必要がある。
適格株式の申告には、特定権利行使株式を扱う計算明細書を使う。これらの株式には特定口座やNISA制度を利用できない。発行会社の付与・行使記録と権利者の売却記録をつなぎ、権利行使価額、売却株数、売却代金、手数料を確認する。株式分割や複数回の取得・売却があれば、取得費の調整も必要になる。
- 売却株式がどの付与契約と権利行使に由来するか特定する。
- 適格なら権利行使価額、非適格の無償付与型なら行使時株価を取得費の起点として計算する。
- 株数、代金、手数料、株式分割などの調整事項を申告資料に反映する。
適格・非適格の課税タイミング
発行会社から役職員に無償で付与される一般的な場合、課税と取得費の流れは次のようになる。非適格側の行使時の所得区分は、付与の理由や権利者と発行会社の関係に応じて判断する。
- 税制適格:付与時は課税なし → 行使時の経済的利益は課税繰延べ → 売却時に「売却価格-権利行使価額」を基に譲渡所得等を計算。
- 税制非適格の無償付与型:付与時は通常課税なし → 行使時に「行使時株価-権利行使価額」を所得として計算 → 売却時に「売却価格-行使時株価」を基に譲渡所得を計算。
関連記事:
関連記事
ニュースレターを購読
Web3、AI、暗号資産の最新ニュースを受信箱にお届けします。




