エンジェル税制AかBか、控除先より先に「売却時」を見る

|著者: QUASA編集チーム|2 分で読めます
エンジェル税制AかBか、控除先より先に「売却時」を見る

東京都の税優遇一覧では、優遇措置Aは投資額から2,000円を引いた額を総所得金額等から、Bは投資額をその年の他の株式等譲渡益から控除する。Aの控除対象は総所得金額等の40%と800万円の低い方が上限で、Bに投資額の上限はない。ただし、Bでその年に控除できる額は対象となる譲渡益に左右され、住民税分は優遇の対象外だ。

投資年の控除額だけでは、AとBの有利不利は決まらない。国税庁の制度概要によれば、特例を適用した株式は後年の売却時に取得価額の調整が必要になる。通常のA・Bでは、適用した額を取得価額から差し引くため、同じ価格で売っても税務上の譲渡益や譲渡損失が変わる。比較する順序は、対象になる投資か、投資年にいくら控除するか、調整後の取得価額はいくらか、売却時に利益と損失のどちらが生じるか、である。

まずAとBの対象になる投資を分ける

AとBは、同じ株式について控除先だけを自由に入れ替える仕組みではない。対象企業の設立後の期間はAが5年未満、Bが10年未満で、企業と個人投資家にはそれぞれ要件がある。Bの対象になる企業でも、Aの要件まで満たすとは限らない。投資先が交付を受ける確認書の区分と、投資家自身の要件を先に確かめる必要がある。

取得方法も重要だ。比較の対象は、適格な企業が発行する新株を払込みによって取得する場合であり、既発行株式を別の株主から買う場合を同じ前提に置けない。投資した年の年末まで保有するかという条件も、投資年の控除を考える際に関わる。AとBの両方の要件を満たして初めて、控除額を並べる意味がある。

投資年は控除額と税額を分けて比べる

以下は条件付きの例とする。A・B双方の要件を満たす企業の新株に500万円を投資し、その年の総所得金額等は1,500万円、他の株式等譲渡益は200万円とする。総所得金額等にはこの譲渡益を含め、ほかの寄附金控除や譲渡損失はないものとする。Bの前年分所得税の繰戻し還付も利用しない。

  • A:500万円から2,000円を引いた499万8,000円が控除候補となる。総所得金額等の40%は600万円で、800万円より低い。この例では499万8,000円を控除できる。
  • B:投資額は500万円だが、当年の対象となる譲渡益は200万円。この例で投資年の譲渡益から控除する額は200万円となる。

499万8,000円と200万円は、節約できる税額ではなく、税額計算の前に所得から差し引く額だ。Aの税負担への効果はその人の所得状況で変わり、Bの当年の効果は対象となる譲渡益の範囲で決まる。投資年だけを比較する場合でも、控除額をそのまま「得した金額」と扱わず、それぞれの控除を反映した所得税額を見る必要がある。

売却時の取得価額を同じ投資額から計算する

この例でAを適用すると、売却時に使う調整後の取得価額は500万円−499万8,000円=2,000円となる。Bで当年の200万円だけを控除した場合は、500万円−200万円=300万円だ。実際に支払った投資額は同じでも、税務上の取得価額は異なる。Bで控除できなかった300万円まで、当年に適用した額として差し引いてはならない。

ただし、Bの未控除額には条件付きの別の扱いがある。国税庁の譲渡益控除の説明では、2026年1月1日以後に取得した一定の対象株式について、前年分所得税の繰戻し還付を請求できる場合がある。前年分と投資年分の期限内申告などが条件で、還付請求の基礎になった額は取得価額の調整にも関わる。以下の売却例は、この還付を受けない前提で計算する。

仮に株式を後年700万円で売り、売却費用などを考慮しなければ、Aの譲渡益は699万8,000円、Bの譲渡益は400万円になる。Aでは投資年の所得控除が大きい一方、売却時の取得価額は小さい。投資年の減税額と売却年の課税額は別の年に生じるため、控除額だけを横に並べても最終的な税負担は比べられない。

現金の損失と税務上の譲渡損失を分ける

同じ株式を仮に100万円で売ると、投資額との差は400万円の損失だ。しかし調整後の取得価額で計算すると、Aは100万円−2,000円=99万8,000円の譲渡益、Bは100万円−300万円=200万円の譲渡損失になる。現金の持ち出しが同じでも、売却損の特例に使える税務上の損失額は同じではない。

対象株式を適用期間内に売却して損失が生じた場合、国税庁の損益通算の説明では、一般株式等の譲渡所得から控除しきれない部分を、上場株式等の譲渡所得から控除できるとしている。適用期間は発行会社の設立から上場等の日の前日までで、親族への譲渡など対象外となる取引もある。例のBで生じる200万円も、売却の条件を満たして初めてこの通算を検討できる。

その年に通算しきれなかった対象損失については、国税庁の繰越控除の説明により、翌年以後3年間の一般株式等・上場株式等の譲渡所得から控除できる。損失が出た年に必要書類を添えて申告し、その後も連続して申告することが条件だ。株式の売却がなかった年も、損失を翌年へ繰り越すには申告を要する。将来の譲渡益が生じるとは限らないので、繰越額を投資年に確定した税効果として数えることはできない。

選択は売却額を置いてから決める

  1. 投資先、取得方法、投資家の要件から、AとBのどちらが選択肢になるかを確定する。
  2. 投資額、総所得金額等、その年の他の株式等譲渡益を置き、AとBの投資年の控除額を別々に計算する。
  3. 各方式で実際に適用する額を取得価額から差し引く。Bで繰戻し還付を請求するなら、その額も反映する。
  4. 利益が出る売却額と損失が出る売却額を仮定し、調整後の取得価額から譲渡損益を計算する。損失が残る場合は、通算の対象と継続申告の条件まで含める。

この順に比べると、Aで投資年の所得控除を大きく取る場合と、Bで株式等譲渡益を控除する場合とで、売却時に残る取得価額の差まで判断材料にできる。特に損失を想定する投資では、投資額から売却額を引くだけでは足りない。調整後の取得価額を使って初めて、通算や繰越の対象になる損失が見える。

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