開発費を全額費用にすると危ない、自社ソフトの資産計上境界

|著者: QUASA編集チーム|2 分で読めます
開発費を全額費用にすると危ない、自社ソフトの資産計上境界

自社利用ソフトウェアの開発費は、研究開発に当たる部分を発生時に費用処理し、利用による将来の収益獲得または費用削減が確実になった後の制作費を無形固定資産に計上する。企業会計基準委員会の実務指針は、効果が確実と認められない場合や不明な場合、会計上は費用処理すると定めている。

ただし、会計上の費用処理は、法人税上も全額を当期の損金にできるという意味ではない。自社利用ソフトの効果がまだ不明な支出は、税務上の取得価額に含まれる場合がある。企画から稼働後の改修まで、作業の目的と効果を判断できた時点で分ける必要がある。

企画、研究、制作をどこで分けるか

「開発」というプロジェクト名だけでは処理は決まらない。新しい知識や仕組みを探る活動、利用するソフトを完成させる活動、完成後の機能を保つ活動では、支出の性質が異なる。同じ担当者が続けて作業していても、活動の内容と時期を分けて捉える。

  1. 企画・調査:利用目的、必要な機能、見込む効果を固める段階。新しい知識の発見に向けた調査や探究は研究に当たる。単に企画段階というだけで全支出を研究開発費とせず、何を調べ、何を作っていたかを区別する。
  2. 研究・試作:技術的な課題を解くための試作や実験は、研究開発活動として捉える。一方、後に実用化の見通しが立ってから行う制作まで、先行する試作と一括して費用処理するわけではない。
  3. 制作:将来の収益獲得または費用削減が確実と認められる状況になった後、完成に向けて行う作業が資産計上の対象になる。担当者の作業時間、外注先の成果物、対象機能を結び付けると、制作原価の範囲を示せる。
  4. 導入設定:購入ソフトを予定した用途で使うために必要な設定や、自社仕様に合わせる付随的な修正は取得価額に含める。旧システムのデータ変換や操作研修は、会計上は発生した期の費用として扱う。
  5. 機能維持:障害を取り除き、従来の効用を保つ作業は、新しい機能を加える作業と分ける。保守契約という名称に機能追加が含まれる場合も、契約名だけでは支出の性質は決まらない。
  6. 機能追加・大幅改修:稼働後でも、新機能の追加や性能向上には資産計上の検討が要る。仕様を大幅に変更して新しいソフトを制作するなら、既存ソフトへの修正費とは分けて考える。

資産計上の開始と終了を何で示すか

会計上の資産計上は、効果が確実と認められる状況になった時点から始まる。例えば、従来の入力作業を統合して業務を効率化できることが明確になった場合や、ソフトを使うサービスの対価を契約に基づいて得られる場合が判断材料になる。便利になりそうだという期待だけでは、同じ確実性を示せない。

開始時点を示す資料として、制作予算を承認した社内稟議書や、制作原価を集計する番号を記した管理台帳が考えられる。重要なのは日付だけではなく、その時点の制作目的、対象機能、見込む効果が記録から分かることだ。作業時間と外注費を対象機能に対応付ければ、研究段階の支出との境界も説明しやすい。

資産計上を終えるのは、実質的に制作作業が完了した時点である。作業完了報告書や最終テスト報告書は、その判断を裏付ける。公開日だけで完成を決めると、公開後も続いた制作作業や、完成後に始まった保守作業を混同しかねない。

効果が確実と判断できるようになった後、制作段階に移った場合は、境界前後の支出を同じ制作費としてまとめない。先に費用処理した支出を、完成したという結果だけを理由に、後から一律に資産へ振り替える扱いは避ける。判断時点の資料と原価記録を対応させることが、決算時の区分を支える。

導入設定と稼働後の改修は別の境界

購入ソフトの初期設定と、稼働後の修理は同じ「システム関連費」でも役割が違う。必要な設定や付随的な仕様修正は、購入したソフトを使える状態にするための費用である。会計上、これらは原則として購入ソフトの取得価額に含めるが、重要性が乏しければ費用処理できる。

稼働後は、修正によって得た効用を見る。国税庁の改修費に関する通達解説は、機能上の障害の除去や現状の効用の維持を修繕費、新たな機能の追加や機能の向上を資本的支出として区分する。請求書に「保守料」とあっても、修理と機能追加が混在するなら作業内容ごとの区分が必要になる。

大幅な仕様変更では、既存ソフトと同一の資産を改良したのか、新しいソフトを制作したのかも問題になる。会計上は、新しいソフトの利用による収益獲得または費用削減が確実なら、購入ソフトの価額を含む制作費を資産計上する。税務上は、新しいソフトの取得価額となる支出と、既存ソフトへの資本的支出となる支出を分ける。

会計では費用、法人税では取得価額となる場合

判断がずれやすいのは、自社利用ソフトの将来効果が「不明」な場合だ。会計上は確実性を示せず費用処理しても、税務上、研究開発費を取得価額から除外できるのは、利用によって将来の収益獲得または費用削減につながらないことが明らかな場合に限られる。効果が不明であることと、効果がないことが明らかであることは異なる。

法人税上、国税庁の取得価額・耐用年数の案内は、自社制作ソフトの取得価額に制作の原材料費、労務費、経費と事業に供するため直接要した費用を含め、複写販売用の原本・研究開発用ソフトの耐用年数を3年、その他を5年としている。業務に使う自社利用ソフトは、制作過程で研究開発費が生じたというだけで「研究開発用」にはならない。

制作計画を変更した結果、完成したソフトに不要となった部分が明らかなら、その部分の費用を税務上の取得価額に算入しない取扱いもある。方針を変更したという事実だけで、制作費全体が除外されるわけではない。どの作業が不要となり、完成資産に使われていないかを原価記録から特定する必要がある。

償却年数は会計と税務で分ける

資産に計上した後も、会計上の利用可能期間と法人税上の耐用年数は別に判断する。会計上、自社利用ソフトは利用の実態に応じた合理的な方法で償却し、一般には定額法が合理的とされる。利用可能期間は原則として5年以内で見積もり、これを超える期間には合理的な根拠が要る。

法人税上の3年と5年は、制作時に研究作業があったかではなく、完成したソフトの用途による区分である。会計と税務で取得価額の範囲が異なれば、償却計算の出発点も異なる。決算では、制作した機能、支出の目的、効果を判断した時点、完成時点を対応させて、それぞれの取得価額を算定する。

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