
粗利が高くても受注で赤字になる、限界利益は費用を分け直す

粗利(売上総利益)は売上高から売上原価を引いた額、限界利益は売上高から変動費を引いた額だ。freeeの会計解説も両者の計算式を区別している。売上と粗利が同じ受注でも、決済手数料や案件ごとの外注費が異なれば、限界利益は変わる。
受注の採算を見るには、帳簿上の売上原価だけで判断せず、その注文によって増える費用を集め直す。さらに、受注を条件に新たな月額費用が発生するなら、限界利益からその額を引く。粗利が大きくても赤字になり得るのは、商品原価の後に差し引く費用を含めると、固定費まで賄えない場合だ。
売上原価と販管費を、変動費と固定費に分け直す
損益計算書の粗利は、売上高から売上原価を引いて求める。その後に販売費及び一般管理費を差し引くため、粗利だけでは販売経路の手数料や受注に連動する営業費用の差が見えない。限界利益では費用の計上場所をいったん離れ、売上や販売数量の増減に伴う費用を変動費としてまとめる。
たとえばカード決済手数料は販管費に計上されていても、売上に応じて増える部分は変動費に当たる。大阪産業創造館の変動損益計算書の解説は、モールへの支払いとカード決済手数料を組み替える例を示している。帳簿で同じ「支払手数料」に入っていても、売上に連動する分と毎月一定の分があれば、受注判断では分けて扱う。
反対に、売上原価に含まれる費用がすべて変動費とは限らない。製造原価に含まれる設備の減価償却費や固定給は、注文を一件増やしても対象期間には変わらない場合がある。こうした費用を注文に配賦した額と、追加受注によって実際に増える額は別だ。原価に固定費が含まれ、販管費に変動費が含まれるため、粗利と限界利益の大小に決まった順序はない。
注文とともに増える支出を拾う
変動費に入れるかどうかは勘定科目名だけでは決まらない。対象とする期間に注文を一件増やしたとき、支払額がどう変わるかを契約条件に沿って見る。日本政策金融公庫の損益分岐点の説明は、仕入れ、外注加工費、配送料、販売手数料を変動費の例に挙げている。
- 仕入れ・材料費:追加販売に必要な数量と、その数量に適用される単価で計算する。まとめ買いで単価が変わる場合は、見積もる販売数に合った条件を使う。
- 決済手数料:売上高に対する料率分と注文ごとの定額分を分ける。月額の基本料があれば、その注文だけを受けることで基本料も新たに発生するか確認する。
- 外注費・配送料:注文ごとに請求される作業料や配送費を入れる。受注件数に関係なく支払う月額委託料は、同じ外注費でも別に扱う。
- 歩合給:成約や売上に連動して追加で支払う部分を入れる。受注が増えても変わらない固定給は、同じ人件費でも固定費になる。
人件費を一律に固定費とするのも適切ではない。税理士法人Light UPの費用分類は、正社員の固定給と、繁忙期のアルバイト代や歩合給を分けている。外注費にも同じ考え方が使える。案件ごとの作業料は注文数とともに増える一方、一定期間の業務枠を確保するための月額契約は、その枠内では増えない。費用の性質が混在する契約は、定額部分と従量部分を分けて計算する。
同じ粗利でも、案件別の損益は黒字と赤字に分かれる
以下は計算を示すための仮定の例で、実在企業の実績ではない。同じ商品を販売する案件Aと案件Bを、どちらか一方だけ受けるとする。いずれも売上高は100万円、商品の売上原価は40万円で、帳簿上の粗利は60万円だ。決済手数料、販売・納品支援の外注費、歩合給は販管費に計上され、受注ごとに発生するという条件を置く。
- 案件A:決済手数料3万円、外注費5万円、歩合給2万円。商品原価を含む変動費は50万円で、限界利益は50万円。
- 案件B:決済手数料5万円、外注費30万円、歩合給5万円。商品原価を含む変動費は80万円で、限界利益は20万円。
二案件の粗利はともに60万円だが、限界利益には30万円の差がある。主な差は商品の仕入れではなく、受注に連動する外注作業から生じている。粗利だけを並べると、販管費に計上されたこの差を案件選択に反映できない。
さらに、いずれかの案件を受けると専用の月額費用25万円が新たに必要になり、その月の受注は一件だけと仮定する。案件に直接帰属する営業損益は、Aが50万円-25万円=25万円の黒字、Bが20万円-25万円=5万円の赤字となる。ここでの案件別損益は共通の家賃などを配賦しない管理上の計算であり、会社全体の損益計算書に案件ごとの営業利益が表示されるという意味ではない。
追加受注では、避けられる費用を基準にする
同じ案件Bでも、専用の月額費用25万円をすでに負担しており、追加の一件で契約額が増えないなら結論は変わる。売上高100万円から追加の変動費80万円を引いた20万円が、その一件による利益の増加分だ。すでに支払うと決まった25万円を再び差し引くと、追加受注の効果を小さく見積もってしまう。
ただし、受注を増やすために新たな契約枠や人員が必要なら、その増加額も引く。判断に使う差額は「追加売上高-追加変動費-追加で必要になる固定費」である。案件Bを一件受けるために初めて25万円の契約が必要なら、限界利益20万円では5万円足りない。既存契約の範囲で受けられるなら、その一件の限界利益20万円はプラスになる。
作業能力にも限りがある。案件Bを入れることで、同じ期間に受けられる案件Aを断るなら、両者の限界利益の差も選択に関わる。この仮定ではAが50万円、Bが20万円なので、固定費の追加条件が同じならAを選ぶほうが30万円多く残る。追加受注で何を失うかは、空いている人員や設備がある場合と、既存の注文を押し出す場合で異なる。
値引き後は、一件当たりの限界利益から必要件数を出す
値引きは売上高だけでなく、料率で決まる手数料も変える。案件Bを100万円から90万円へ値引きし、商品原価40万円と注文ごとの外注費30万円は変わらず、決済手数料と歩合給がそれぞれ売上高の5%だと仮定する。値引き前は手数料と歩合給が各5万円で、限界利益は20万円。値引き後は両方が各4万5000円となり、限界利益は90万円-40万円-30万円-4万5000円-4万5000円=11万円になる。
値引き前に十件売った場合の限界利益の合計は200万円だ。同じ額以上を値引き後に得るには、200万円÷11万円=約18.2件なので、十九件が必要になる。十八件では198万円にとどまる。販売数を十件から十九件に増やせる見込みがなければ、手数料の減少を織り込んでも、値引き前の限界利益総額には届かない。
専用の固定費25万円だけを回収する条件なら、値引き前は二件、値引き後は三件が必要だ。J-Net21の損益分岐点の説明では、限界利益と固定費が等しくなるところを利益ゼロの境目としている。一件当たりの限界利益で対象期間の固定費を割り、端数を切り上げれば必要件数を求められる。
十九件という数字は、仕入単価、外注単価、手数料率と必要な体制が、その販売数でも変わらない場合の結果だ。数量の増加によって外注料金の段階が変わる、追加人員が必要になる、あるいは販売経路の条件が変わるなら、その数量で費用を計算し直す。値決めに必要なのは粗利率だけではなく、販売数の変化に応じた限界利益と、そこで新たに生じる固定費である。
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