
業務委託の源泉徴収、個人への支払いでも全案件ではない

日本の居住者である個人に業務委託費を払う場合でも、全件で源泉徴収するわけではない。国税庁の対象となる報酬・料金等の一覧に支払いの実態が当たり、支払者にも徴収義務がある場合に、支払いの際に所得税等を差し引く。原稿料や講演料、特定の資格者への報酬は対象の例だ。
請求書に源泉徴収税額の記載があるかどうかで要否は決まらない。支払う前に受取人の区分、対価となる仕事、支払者の条件を順に確かめ、その結果に合わせて請求額の内訳を処理する。
受取人は個人か、内国法人か
最初に確かめるのは、契約と支払いの相手方だ。個人事業主が屋号を使って請求していても、屋号だけで法人になるわけではない。請求書の表示に加え、誰と契約し、誰が報酬を受け取るのかを見る。個人だと分かっても、この段階では源泉徴収の対象とは確定しない。
受取人が内国法人なら、個人に支払う原稿料や資格者報酬の区分をそのまま当てはめない。内国法人への支払いとして挙げられている対象は、馬主である法人に支払う競馬の賞金だ。制作会社が受注した記事を所属する担当者が執筆しても、発注者から制作会社への支払いは、個人ライターへの原稿料とは受取人の区分が異なる。
研究会や劇団など、個人か法人か判然としない団体には別の確認が要る。法人税を納める義務があること、または規約や日常の活動状況などから独立した団体として存在することを明らかにできれば、法人として扱う。請求書や振込先の名称だけで判断しにくいときは、報酬を受ける主体を確かめる。
「外注費」ではなく、何の対価かを分ける

受取人が個人なら、次は今回の仕事を法定の報酬区分に照らす。原稿の執筆、講演、弁護士・公認会計士・司法書士など特定の資格者の業務に対する報酬は対象となる。モデルへの報酬や芸能の出演料なども、それぞれ対象区分に含まれる。一方、勘定科目が「外注費」であるというだけでは、報酬の実態は分からない。
たとえば「制作一式」という請求に原稿の執筆と別の作業が混在していれば、全額を原稿料とみなす前に内訳を確認する必要がある。契約で依頼した仕事、納品されたもの、請求の内訳を照らし、どの金額が対象となる業務の対価なのかを分ける。「顧問料」や「相談料」も、名称より実際に提供された業務を確認する。
契約名が業務委託でも、働き方の実態が雇用に当たる場合は、報酬・料金等ではなく給与としての源泉徴収を検討する。契約名と指揮命令の実態が食い違う取引では、報酬の種類を決める前にその区分を整理したい。
支払者が個人なら、給与の支払いも確認する
対象となる報酬でも、支払者が個人なら例外がある。国税庁の源泉徴収義務者の説明では、給与等を支払っていない個人、または常時2人以下の家事使用人だけに給与を支払う個人は、ホステス等への報酬を除き、報酬・料金等の源泉徴収を要しないとしている。
従業員に給与を支払う個人事業主は、この例外を前提にできない。青色事業専従者への給与もここでいう給与に含まれ、その給与について納付すべき源泉税額がなくても、対象報酬を支払う際の徴収義務は残る。確認するのは給与から実際に税金を納めたかではなく、給与等を支払っているかどうかだ。
仮に給与を支払っていない個人事業主が税理士へ報酬を払うなら、資格者への報酬という点だけで源泉徴収を決めず、支払者側の例外も照合する。会社が同じ報酬を居住者の個人へ支払う場合には、個人の支払者に設けられたこの例外は適用されない。受取人と業務が同じでも、支払者の条件によって結論が変わる。
謝礼・交通費・消費税は対象額を変えるか

請求書の名目を変えても、対価の実態は変わらない。国税庁の原稿料・講演料の取扱いでは、「謝金」「取材費」「車代」などの名目でも、実態が原稿料や講演料と同じなら源泉徴収の対象になるとしている。講演の対価を謝礼として請求された場合も、まず仕事の内容で判断する。
講師や執筆者に渡す旅費・宿泊費も、原則として報酬・料金等に含まれる。一方、支払者が交通機関やホテルなどへ直接支払い、金額が通常必要な範囲なら、報酬に含めなくてよい。「交通費実費」と請求書に書かれているだけでは、支払者が交通機関へ直接支払ったことにはならない。
消費税等を含む対象報酬は、原則として税込みの金額を源泉徴収の計算基礎にする。ただし、請求書などで報酬本体と消費税等の額が明確に区分されていれば、報酬本体だけを計算基礎として差し支えない。これは対象報酬のいくらを計算基礎にするかという扱いであり、消費税欄を分けることで徴収義務そのものがなくなるわけではない。
請求書の処理では、受取人、仕事の内容、支払者の条件を確定してから、旅費や消費税等を含む対象額を決める。複数の作業や費用が一つの金額にまとまっているなら、支払い前にその内訳を確認する。請求書に源泉徴収税額が書かれていない場合も、同じ判定が必要だ。
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