
富士通が米国に量子研究拠点、1.5億ドル基金との関係は

富士通は10月9日付の発表で、米ニューメキシコ州と量子コンピューティング研究センターの設立に向けた協業を2026年10月8日に始めたと明らかにした。計画中のセンターでは、量子技術の研究に加えて教育と専門人材の育成を進める。両者が踏み出したのは拠点設立に向けた協業で、センターの開所ではない。
資金については、州政府の10月8日付の発表が、2019年以降に量子技術基盤へ4.5億ドル超を充てると約束し、その中に州内の研究開発向け1.5億ドル(1億5,000万ドル)基金を含めていると説明する。基金は州全体の施策であり、富士通のセンターにその全額を交付するという決定ではない。拠点の研究計画と州の資金枠を分けることが、今回の協業を理解する鍵になる。
サンタフェで覚書、拠点の具体化はこれから
富士通と州の協業は、州都サンタフェでの覚書調印を起点とする。調印にはミシェル・ルーハン・グリシャム知事と富士通のヴィヴェック・マハジャン最高技術責任者が参加した。サンタフェは調印の場所であり、研究センターの所在地として示された場所ではない。
マハジャン氏は調印の場で州内の研究環境について「You have world-class labs here, really good university talent」と語ったと、Source New Mexicoの現地報道は伝えた。州内の国立研究所や大学の知見を、富士通の計算技術と結び付けることが構想の中心にある。両者は研究機関との協力や人材育成を進めながら、センターの活動を具体化していく。
覚書によって示されたのは共同研究を進める方向であり、施設、設備、運営体制まで完成したという意味ではない。研究の相手やテーマは、既存の大学との関係を土台に広げる方針だ。どの機関がどの事業に加わるかによって、センターが実際に担う研究の範囲も定まっていく。
量子計算と従来型計算をどう結ぶか

センターの研究対象は、量子コンピューティングのハードウェア、ソフトウェア、アルゴリズム、理論にまたがる。量子プロセッサそのものだけでなく、計算を動かす仕組みや利用方法も扱う構想だ。富士通は、自社の高性能計算と量子技術の知見を、この幅広い研究に持ち込む。
具体的な柱の一つは、量子計算と従来型の高性能計算を組み合わせるハイブリッド環境である。富士通の次世代CPU「FUJITSU-MONAKA」を基盤とする高性能計算が、量子コンピューティング、量子シミュレーション、AIとどう連携できるかを検証する計画だ。複数の計算方式を一つの研究課題の中で使い分けるため、装置の性能だけでなく、仕事の分担や結果の確かめ方も研究対象になる。
その役割分担では、入力データの準備、大規模なシミュレーション、制御、誤りの緩和、結果の検証などを従来型の計算機が担うことを想定している。量子プロセッサには、その特性を生かせる特定の計算を割り当てる。富士通が検討するのは、両者を接続したシステム全体の設計と検証であり、量子プロセッサだけを独立して使う構想ではない。
将来の応用先には、材料、創薬、製造、エネルギー、金融サービス、物流が挙がる。これらは研究開発を進める分野として示されたもので、センターによる成果や商用サービスがすでに生まれたことを示すものではない。まず必要になるのは、個別の課題に合わせて量子計算と従来型計算の担当を定め、実際に有効な方法を確かめることだ。
州基金はセンター固有の事業費ではない

州の基金は、ニューメキシコ州内で進む研究開発を支える資金枠として位置付けられている。州は量子関連事業の集積を政策として進めており、企業の設立や拡大を支える考えも示している。富士通との協業はその環境の中で始まったが、州全体の基金を一社の拠点予算に読み替えることはできない。
州が量子技術基盤に充てると約束した資金総額も、センターの建設費や運営費を表す数字ではない。州内の研究開発を支える施策の規模と、個別の共同研究に配分される額は別の情報である。富士通の拠点に州基金からいくら配分するか、富士通自身がいくら負担するかは、個別の事業計画として決まる必要がある。
この違いは、拠点の規模を見積もる際にも重要だ。基金が存在することで共同研究のための政策的な支えは見込める一方、センターが利用できる設備、人員、研究費は、その拠点に関する決定があって初めて明確になる。現段階で基金全額をセンターへの投資として加算すれば、協業の規模を過大に見せてしまう。
既存の大学研究から協力先を広げる
富士通には、州内で研究を進める足場がすでにある。ニューメキシコ州立大学とは2025年10月から「FUJITSU-MONAKA」と関連する高性能計算の共同研究を行っている。今回の協業は、その関係を量子コンピューティングやハイブリッド計算へ広げる機会となる。
共同研究の候補として挙がるのは、サンディア国立研究所、ロスアラモス国立研究所、ニューメキシコ大学、ニューメキシコ州立大学などだ。富士通はこれらの機関の強みを生かす機会を検討する段階にある。名前が挙がったすべての機関と、個別の研究契約が成立したわけではない。
ニューメキシコ大学のクオンタム・ニューメキシコ・インスティチュートとは、研究協力を広げる仕組みづくりを進める方針だ。対象には量子アルゴリズム、アプリケーション、システムの研究が含まれる。富士通にとって米国拠点の意味は、現地の研究者と継続的に協力し、自社のCPUや高性能計算の研究を量子分野の課題につなげられる点にある。
教育と人材育成も拠点の役割に
計画するセンターは、研究成果を生む場所であると同時に、量子分野の専門人材を育てる場として構想されている。共同研究に加え、インターンシップ、大学との連携、その他の育成プログラムを通じて、学生、研究者、エンジニアが参加する道筋をつくる。ハードウェアから応用まで研究領域が広いため、異なる専門の人材が協力する体制づくりも重要になる。
州は高度な専門職の雇用や民間投資の誘致を期待し、富士通は研究活動の拡大を目指す。これらは協業が目指す効果であり、採用人数や研究成果として確定した数字ではない。今後、センターの所在地、開所計画、共同研究の内容と個別の資金配分が示されれば、州の基金が拠点にどう関わるかも具体的になる。
関連記事:
関連記事
ニュースレターを購読
Web3、AI、暗号資産の最新ニュースを受信箱にお届けします。




