AIで判断力が落ちる不安60%、IBM調査が示す人事の空白

|著者: QUASA編集チーム|2 分で読めます| 1
AIで判断力が落ちる不安60%、IBM調査が示す人事の空白

IBMの2026年9月21日付発表 によると、人事責任者ら1500人とフルタイム従業員8800人を対象とする世界調査で、従業員の60%がAIによる技能の低下を懸念し、衰えたと感じる能力には批判的思考が最も多く挙がった一方、46%の組織ではAI戦略の策定に最高人事責任者(CHRO)が関与していなかった。60%は判断力の低下を測定した割合ではなく、技能が衰えることへの不安を示す回答だ。

2026年9月21日に公表された同じ調査について、Virtualization Reviewの検証記事 は、AI出力を監督・検証・上書きする能力を重視した人事責任者らが71%、従業員が38%であり、発表資料にある従業員の29%は別の「判断力」を重視する回答だと区別している。企業が求める確認能力と従業員の認識には隔たりがある。その能力を仕事のどこで使い、誰に決定権を与えるかまで考えると、人事部門の不在は研修だけでは埋められない空白になる。

不安の数字は、能力試験の結果ではない

調査は、AIを使う前後で同じ課題を解かせ、判断力の変化を測った実験ではない。従業員の経験や懸念と、人事責任者らが重要と考える能力を尋ねた回答である。「技能が落ちるのではないか」という不安は、実際に技能がどれほど変化したかという測定結果と分けて読む必要がある。

回答の隔たりにも設問上の境界がある。「判断力」を重要とするかと、「AI出力を監督・検証・上書きする能力」を重要とするかは、近い話題でも同じ問いではない。異なる設問の比率を引き算し、認識差の大きさとして示すことはできない。一方、AIの提案を受け取るだけでなく、根拠を確かめ、必要なら退ける役割が人に期待されていることは読み取れる。

新しいツールの操作を知らないことと、以前から使っていた判断力を仕事の中で使わなくなることも異なる。前者には知識を得るための研修が対応する。後者では、問題を定めたり例外を判断したりする工程をAIに移した後も、人が考える機会をどこに残すかが問われる。研修を増やしても、学んだ能力を行使する権限や時間が職務から消えていれば、技能の衰えへの不安には十分に応えられない。

CHROの不在が曖昧にする判断の責任

AI導入では、作業の速さだけでなく、提案を誰が承認し、誤りを誰が見つけ、例外を誰に戻すかが変わる。人事責任者が戦略策定に加わらない場合、技術を入れる計画と、職務・評価・育成を変える計画が別々に進みやすい。これは人事だけでAIの使い方を決めるべきだという意味ではない。事業部門やIT部門とともに、人が担う判断を業務の設計に明記する必要がある。

AIが下書きや候補を作っても、内容の確認、誤りの修正、背景の補足、想定外の事態への対応は残る。こうした作業が担当者の善意に委ねられると、必要な時間も技能も評価されにくい。出力を覆す責任だけを従業員に負わせ、実際には異議を唱えにくい職場であれば、「人が最終確認する」という規定も形だけになり得る。

人事に近い採用、昇進、評価、報酬では、結果の説明を求める相手がいる。AIが候補や根拠の下書きを示すことと、その内容を採用して決定することは別の仕事だ。最終決定者に加えて、情報を確認する担当者、異議を受ける窓口、判断をやり直す条件まで定めなければ、責任の所在は明確にならない。職務設計を人事課題として扱う理由はここにある。

人主導・AI支援・AI実行をどう分けるか

IBMの調査特設ページ では、業務を人主導・AI支援・AI実行に明確に分ける組織は26%で、人事部門内でAIを限定的にしか使わない、または使わない組織は72%だった。また、統治、システム構成、効果測定を含む人事のAI能力が成熟した組織は、より多くの事業KPIに好影響があったと報告する可能性が約2倍だった。最後の結果は組織間の関連であり、人事にAIを導入すれば業績が倍になるという因果関係を示すものではない。

以下は調査対象企業の実例ではなく、日本企業で業務を分ける際の仮の判定例である。区分の軸は、AIを使えるかどうかだけではない。結果が個人に与える影響、誤りを戻せるか、理由を説明する必要があるか、人が判断を練習できるかを組み合わせる。

  • 人主導:採用の合否や昇進の決定など、当事者への影響が大きく、理由を説明する必要がある判断。AIが情報を整理しても、基準の適用と決定は権限を持つ人が担う。人事は決定者と異議への対応を職務に位置付ける。
  • AI支援:応募情報の要約や面接質問案の作成など、提案を人が確かめてから使う作業。担当者には、抜け落ちた情報や不適切な推論を見つけ、提案を退ける時間と権限が要る。人事はその確認作業を評価から見えなくしない。
  • AI実行:面接日程の候補照合や条件の決まった定型連絡など、事前に定めた範囲で処理できる作業。個人情報の扱いと、条件から外れたときに人へ戻す経路を先に決める。異議や説明の要求まで自動処理に含めない。

同じ名称の業務でも、扱う情報と結果の影響が変われば区分は変わる。定型連絡はAIに任せられても、選考理由を問われた際の判断まで同じ区分にはできない。分類を実装する際に重要なのは、AIへ渡す工程と同じ具体性で、人へ戻す条件、確認者、最終決定者を定めることだ。そこまで書かれて初めて、従業員は自分に求められる判断を理解できる。

人事部門自身のAI利用と、まだ分からないこと

人事が全社の職務設計を担うなら、自部門のAI利用も検討対象になる。採用や評価に関わる情報は慎重な扱いを要するため、試行する業務、利用するデータ、出力を確かめる担当者を明確にする必要がある。人事部門自身が確認や例外処理に必要な仕事を把握できれば、他部門の職務記述や評価基準にも具体性を持たせやすい。ただし、自部門での利用を増やすこと自体を成果と取り違えてはならない。

人材育成の成果も、研修の受講だけでは捉えきれない。AIの提案に疑問を示せるか、判断の理由を説明できるか、仕事の中で問題を定める機会が残っているかは、実際の業務と合わせて見る必要がある。確認作業を職務に含めず、処理速度だけを評価すれば、人に判断を求める方針と日々の働き方が食い違う。今回の結果が示す人事の課題は、技能の教育と、技能を使う仕事の設計を結び付けることにある。

公表された数値は世界調査の結果であり、そのまま日本の企業や従業員の割合とは言えない。また、回答された不安から実際の能力低下を断定することも、職務の区分と事業成果の因果関係を証明することもできない。現時点で確認できるのは、技能への懸念と、AI戦略への人事の関与、業務区分、人事部門自身のAI活用に空白があるという状態だ。日本での判断には、国内の回答の内訳に加え、職務を変えた前後で判断の機会や業務の質がどう動いたかを示すデータが必要になる。

関連記事:

共有:

ニュースレターを購読

Web3、AI、暗号資産の最新ニュースを受信箱にお届けします。

0