
金融庁が分散型金融研究会を始動、制度点検はDEX・ウォレットまで

金融庁は2026年10月20日、「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」の初会合を開いた。制度点検の対象はステーブルコインと資産のトークン化に加え、分散型取引所(DEX)を含む分散型金融(DeFi)、ウォレット提供業者に及ぶ。どの分野を先に扱うか、どのような規制を設けるかは、これから検討する。
同日の初会合の議事次第には、金融庁の事務局説明、野村ホールディングスとSecuritize Japanへのヒアリング、討議が並ぶ。会場は東京都千代田区の中央合同庁舎第7号館で、オンライン参加も併用した。金融機関と資産トークン化事業者の意見を聞く段階であり、会合に合わせて新たな義務が決まったわけではない。
対象分野は示されたが、優先順位は未定

研究会が扱う範囲は、資金の移転から証券の権利移転、その後の決済まで広い。金融庁の事務局説明資料は、ステーブルコインと預金のトークン化、セキュリティトークン、DEX・DeFi、振替制度、証券決済の短縮化・高度化を各論に掲げる。最後に委員へ投げかけているのは、イノベーションの促進と投資者保護の観点から、法制度上どの分野を優先して検討すべきかという問いだ。資料の掲載順は審議順を示していない。
出発点となった2026年7月21日公表の金融戦略は、ステーブルコインの制度的枠組み、さまざまな資産のトークン化に関する制度、DEX・DeFiやウォレット提供業者のリスク低減策を点検対象としていた。今回の研究会は、その政策方針を個別の法制度と取引実務に引き寄せる場となる。決済手段、証券、利用者向けの接続サービスは役割が異なるため、一つの規制案にまとめて扱う段階にはない。
ステーブルコインと証券では、守る権利が異なる
ステーブルコインをめぐる論点は、発行者と資産保全の仕組みから始まる。銀行預金をトークン化したものには預金の枠組みが関わり、資金移動業者が発行する電子決済手段には供託などによる保全、信託型には信託財産による保全が関わる。利用者にとっては、同じように送金できる形でも、発行者に対する権利や償還の仕組みが同じとは限らない。
事務局資料は、発行者に加え、誰に移転できるか、移転のたびに発行者が関与するかによってデジタルマネーを整理している。既存の枠組みに収まる形態と、発行を認めるべきかを含めて検討が必要な形態を分けるためだ。研究会の点検によって、現在使われているステーブルコインの保護内容が直ちに変更されたという意味ではない。
資産側の中心は、証券の権利をトークンで表すセキュリティトークンだ。取引の約定と決済を分散型台帳上で連動させても、誰の記録によって権利が確定し、どの機関が記録の責任を負うかは制度上の問題として残る。国内の振替制度では、国債以外を証券保管振替機構、国債を日本銀行が担い、口座管理機関もそれぞれ記録を持つ。共通の台帳へ移る場合には、責任主体、加入者の情報管理、既存の振替手続との接続が論点になる。
証券決済の短縮化も検討項目に入った。取引の記録を速く更新できても、資金の受け渡しと証券の権利移転が制度上いつ完了するかをそろえなければ、金融機関は既存の清算・決済業務と接続できない。研究会が扱うのは、技術上の処理速度だけでなく、その結果を日本の市場制度でどう扱うかという問題である。
DEXとウォレットは、機能ごとに論点が分かれる
DEXを使った取引には、暗号資産を交換する仕組みだけでなく、複数のDEXから取引条件を探すサービス、接続用アプリ、利用者が自ら管理するウォレットが関わり得る。各機能を同じ事業者が担うとは限らない。このため、利用者への説明や不正資金対策の義務を考えるには、誰が取引にどの程度関与しているかを区別する必要がある。
制度上の焦点は、特に国内居住者向けにDEXへの接続画面を提供する事業者にある。先行する暗号資産制度の検討では、接続先のリスク説明や本人確認を含む対策を念頭に、まずサービスの実態を把握する必要があると整理された。プログラムの不備による利用者の損失やマネー・ローンダリングへの悪用リスクが背景にあるが、接続用アプリへの具体的な義務はまだ定まっていない。
ウォレットでも、提供者が利用者の秘密鍵を管理するかどうかによって関与の度合いが変わる。鍵を預からない提供者にどの範囲の義務を課すかは、利用者保護とサービスの実態を照らして考える論点だ。DEXのプログラム、利用者をそこへ導く画面、資産を管理するウォレットを分けることが、規制対象を特定する前提になる。
提出企業の要望は、研究会の結論ではない

野村ホールディングスはDeFiについて「海外と同等」の自由度を求め、秘密鍵を管理しないウォレット提供者への過度な規制を避けるよう要望したと、CoinPostの初会合報道が伝えた。Securitize Japanは、パブリックチェーンや分散型の資産トークン化を前提にした制度設計を提案した。いずれもヒアリングを受けた企業の見解で、金融庁が採用を決めた方針ではない。
両社の提案には、国内制度と海外市場をどう接続するかという共通の課題がある。トークン化した資産の発行だけを認めても、流通、保管、決済に必要な仕組みがつながらなければ取引は完結しない。一方で、接続サービスを通じて利用者が取引する場合には、リスクを説明できる主体と不正資金対策を担う主体を明らかにする必要がある。研究会はこうした要望を、既存の制度と照らして検討する。
2027年初の工程を担うのは別のフォーラム
研究会と「AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム」は役割が異なる。研究会は制度環境の点検を担い、フォーラムは関係省庁などを交えて社会実装の方向を横断的に扱う。金融庁は2026年9月30日のフォーラム初会合議事録で、2027年初に中間整理と官民連携のロードマップを作成する考えを示している。この期限はフォーラムの取りまとめについてのもので、研究会の個別論点について規制内容や施行日が決まる期限ではない。
- 2026年7月21日:金融戦略が、ステーブルコイン、資産のトークン化、DEX・DeFiとウォレット提供業者の制度点検を政策課題に置いた。
- 2026年9月30日:オンチェーン金融フォーラムが初会合を開き、関係省庁などとの検討を始めた。
- 2026年10月20日:分散型金融の研究会が初会合を開き、具体的な制度論点と事業者の提案を議題に載せた。
- 2027年初:フォーラムが中間整理と官民連携のロードマップをまとめる予定。
この順序から見えるのは、政策方針の提示に続いて制度の各論を検討し、その議論を含む社会実装の工程をフォーラムで整理する流れだ。ステーブルコイン利用者に関わる発行者と資産保全の違い、金融機関に関わる権利移転と決済の接続、DEXやウォレット事業者に関わる義務の範囲は、それぞれ別の論点として詰められる。次の焦点は、研究会が優先分野をどう選び、その検討をフォーラムの中間整理にどう反映させるかに移る。
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