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テクノロジー・イノベーション

核融合プラズマを20ミリ秒で制御、PACMANが5実験で実証

|著者: QUASA編集チーム|2 分で読めます
核融合プラズマを20ミリ秒で制御、PACMANが5実験で実証

米プリンストン・プラズマ物理研究所(PPPL)は2026年9月2日、プリンストン大学などの研究者が統合制御基盤「PACMAN」をサンディエゴのDIII-D National Fusion Facilityで運用し、5種類の実機実験で実証したと発表した。PPPLの成果発表 によれば、計測から予測、制御、安全確認、装置への指令までを含む枠組み全体は通常約20ミリ秒で反復する。

同日付の RFDELTAの技術報道 も、DIII-Dでの5実験と約20ミリ秒の制御ループを確認している。ただし、PACMANは一つのAIに装置の全権を渡す仕組みではない。人間が目標とパラメーターを設定し、用途別のモデルと制御器が指令候補を計算した後、決定論的な出力処理が競合と機器上限を扱う。

約20ミリ秒でつなぐ四つの処理段階

DIII-D放電中に計測、予測、制御、安全確認を順に処理するPACMAN

PACMANは「Prediction And Control using MAchiNe learning」の略称で、異なる予測モデルと制御方式を共通の処理系へ組み込む。処理は、診断入力の前処理、モデル、制御器、アクチュエーター出力の後処理という四つのブロックに分かれる。

  1. 入力:温度、密度、磁気信号、加熱装置の状態などを集め、値の妥当性や更新時刻、上流計算のエラーを検査する。
  2. モデル:用途ごとに必要な計測値を読み、現在の状態、将来の不安定性、制御計算に使う低次元表現などを推定する。機械学習だけでなく、物理モデルや標準的な数理処理も配置できる。
  3. 制御器:モデル出力、計測値、人間が指定した目標から、加熱出力やガス供給、ミラー角度などの指令候補を算出する。有限状態機械、比例制御、強化学習、モデル予測制御(MPC)などを用途に応じて使う。
  4. 出力:同じアクチュエーターに対する競合を調べ、指令を機器の許容範囲へ制限してから、DIII-Dの下位制御系へ渡す。

約20ミリ秒という値は、全モデルの推論時間や全実験の制御周期が一律に20ミリ秒だったという意味ではない。PACMAN全体が通常運用で一巡する代表値であり、実験ごとの推論時間と必要な周期は対象現象やアクチュエーターによって異なる。

5実験はAIに任せた範囲がそれぞれ異なる

PACMANの5実験で異なる予測対象とアクチュエーター制御が作動した結果

研究論文の実験表 は、5用途のモデル推論時間を0.2~15ミリ秒と記録している。重要なのは同じAIを五度試したことではなく、予測だけを担うモデルから複数装置を動かす制御器までを、同じ基盤で運用した点だ。

  • 強化学習によるβN・内部輸送障壁制御:中性粒子ビーム入射(NBI)と電子サイクロトロン加熱(ECH)の要求値をモデルが決めた。推論時間は0.8ミリ秒で、必要とされた50ミリ秒の制御周期を達成した。5例の中では、ハードコードされた安全上限の内側でAIが最も直接的に装置指令を選ぶ用途だった。
  • テアリングモード回避:モデルが不安定性の確率を推定し、しきい値に基づく有限状態機械がECHミラーの目標を切り替えた。推論時間は0.6ミリ秒で、発表された実験では発生のおよそ200ミリ秒前にテアリングモードを予測し、予防的な制御につなげた。
  • ELM予測:プラズマ端で突発的に起きるELMの発生可能性を推定した。モデルの実行時間は約0.2ミリ秒だが、PACMAN自身はアクチュエーターを操作せず、予測結果を既存の外部回避制御器へ渡した。
  • アルヴェーン固有モード制御:電子サイクロトロン放射データから高速粒子が駆動する波を検出し、従来型の比例制御がNBI出力を調整した。推論時間は0.65ミリ秒で、出力には最小値、最大値、変化率の制限がかけられた。
  • MPCプロファイル制御:密度と回転の33点プロファイルを人間が定めた目標へ近づけるため、NBIの出力とトルク、ECH出力、重水素ガス注入を同時に最適化した。推論時間は15ミリ秒で、潜在空間への変換に4ミリ秒、最適化計算に最大10ミリ秒を使い、20ミリ秒周期を実現した。

この内訳は「AI制御」が一つの方式を指さないことを示す。強化学習は装置への要求値を直接選ぶ一方、ELM用途のAIは予測までにとどまり、テアリングモードとアルヴェーン固有モードでは機械学習の出力をルールベースまたは比例制御が解釈する。

目標は人間、判断はモデルと制御器が分担

PACMANはDIII-Dの制御階層では上位の制御層に位置する。研究者が目標プロファイル、使用する信号、確率のしきい値、比例ゲイン、予測時間幅などを設定し、PACMANがその目的に沿って高速な計算を繰り返す。

モデルブロックはプラズマの状態や将来の現象を推定し、制御器ブロックがその出力を装置への要求へ変換する。同じブロック内のモデル同士、制御器同士を独立させた設計により、処理順への依存を抑え、新しい構成要素を追加しやすくしている。相互に通信する必要がある複数処理は、一つの統合モデルまたは統合制御器として扱う。

実験後も研究者が記録を確認し、次の放電に向けて制御器を調整する。したがって今回の成果は、自律システムが実験目的まで決定した実証ではなく、人間が定めた目標を機械学習と従来型制御が分担して実行した結果である。

安全性はAIの外側に決定論的な境界を置く

競合指令を停止し機器上限内の操作だけを通すPACMANの出力処理

PACMANは入力から出力まで複数の防護を設ける。必要な診断信号が古い、値が不正、上流の計算が収束していないといったエラーがあれば、その周期では該当モデルや制御器を動かさない。テアリングモード制御では予測確率を平滑化し、一周期の不良値だけでECHミラーの目標が大きく変わることも抑える。

複数の制御器が同じアクチュエーターへ競合する指令を出した場合、現行の出力ブロックはどちらかを推測で採用せず、指令を出さずに運転員へ競合を知らせる。競合がない指令にも、ガスバルブ電圧、NBI・ECH出力、ECHミラー角、3次元コイル電流などの最小値と最大値を適用する。これらは学習モデルの提案より優先される。

ただし、この構成だけであらゆる状態の安全性が証明されたわけではない。論文は、異常入力に対して何もしない選択が状況によって危険になり得ると認め、安全なランプダウン動作を将来の候補に挙げる。また、PACMANより速く進むサブミリ秒級の垂直変位事象には不向きであり、約20ミリ秒の反復速度をすべての不安定性へ一般化することはできない。

DIII-Dでの実証から他装置への検証へ

今回確認されたのは、PACMANがDIII-Dの実機で、性質の異なる5用途の予測またはフィードバック制御を実行できたことだ。発電炉の連続運転や、別のトカマクで同じ性能と安全性を保てることまで実証した結果ではない。

研究チームは今後の開発項目として、モデルブロックと制御器ブロックのマルチスレッド化、新しい診断装置やアクチュエーターへの対応、GPUやFPGAを含む計算基盤を挙げている。モジュール構造は他のトカマクへの移植を想定しているが、装置固有の診断系、応答速度、安全上限を組み込んだうえで、同じ統合性を維持できるかは今後の検証事項となる。

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