Sony・WarnerがAnthropic提訴、争点は歌詞だけではない

Sony Music PublishingとWarner Chappell Musicを中心とする音楽出版社は2026年8月28日、Anthropic、CEOのDario Amodei氏、共同創業者Benjamin Mann氏をカリフォルニア北部地区連邦地裁に提訴した。事件番号5:26-cv-09217の 連邦地裁への訴状 は、著作権で保護された歌詞や楽譜を無許諾で取得し、Claudeの開発と運用に利用したと主張している。
この事件の射程は、Claudeが既存の歌詞を再現したかどうかだけではない。Reutersの8月31日報道 も提訴と学習利用を巡る主張を確認しており、訴状は作品の取得、学習時の複製、生成出力、市場への影響、著作権管理情報の除去を一連の問題として提示した。ただし、いずれも現段階では原告側の主張で、侵害が裁判所に認定されたわけではない。
被告にはAnthropicと共同創業者2人
原告にはSony Music Publishing (US) LLC、Warner Chappell Music, Inc.と、それぞれの関連出版社が名を連ねる。被告はAnthropic PBCに加え、Amodei氏とMann氏の2人である。
訴状は、Mann氏が2021年にLibGenから書籍をBitTorrentで取得し、2022年にはAnthropicの従業員がPirate Library Mirrorから同様に取得したと主張する。さらに、Amodei氏とMann氏がこうした行為を指示、承認、管理したとして、個人についても直接侵害または寄与侵害の責任を追及している。
請求原因は四つに整理されている。全被告によるトレント経由の直接侵害、Amodei氏とMann氏による寄与侵害、Anthropicによる直接侵害、Anthropicによる著作権管理情報の除去・改変である。取得から出力までのすべてが別個の請求原因になっているわけではないが、第三の直接侵害請求の中には、スクレイピング、第三者データセット、物理書籍のスキャン、学習、出力、市場代替という複数の行為が列挙されている。
学習の適法性だけでなく取得方法を問う

訴状が前面に出すのは、Claudeが何を学習したかに先立つ資料の取得方法だ。原告側は、LibGenやPirate Library Mirrorから取得された多数の書籍に、自社が権利を持つ楽曲の歌詞や楽譜が含まれていたと主張する。
トレント以外の経路も対象である。訴状によれば、Anthropicはライセンスを受けた歌詞表示サイトからのスクレイピング、Common Crawl、The Pile、Books3などの第三者データセットのダウンロード、中古書籍を裁断してデジタル化する方法でも資料を集めたという。各経路にどの作品が含まれ、どのClaudeモデルの学習に使われたかという完全な対応関係は、まだ公判記録からは分からない。
ここでは、元資料の取得と、その後のAI学習を区別する必要がある。モデル学習が米著作権法上のフェアユースに当たるかという問題とは別に、海賊版とされる保存用コピーの作成や、トレント利用時の複製・配布が適法だったかが問われるためだ。学習目的に法的な抗弁が認められるとしても、それだけであらゆる取得方法が正当化されるとは限らない。
一方、訴状は学習段階についても、作品を入力データとして複製し、モデルの訓練や微調整の過程でさらにコピーを作ったと主張している。この主張が認められるには、原告側が対象作品、データセット、Anthropicの処理を証拠で結び付ける必要がある。
既存歌詞の再現と生成歌詞の市場代替

出力を巡る主張には二つの層がある。第一は、Claudeが利用者の指示に応じて既存曲の歌詞を逐語的またはほぼ逐語的に生成し、権利者の複製権や表示権を侵害したという主張だ。
第二は、既存歌詞と一致しない「新しい」歌詞であっても、Claudeが無許諾の学習素材から得た能力を使って大量に生成し、作詞家や出版社の作品と競合する市場代替物になるという主張である。ここでは個々の出力の類似性だけでなく、正規の歌詞ライセンス市場やAI学習向けライセンス市場に与える影響まで争点になり得る。
ただし、市場代替は訴状に記された原告の法的評価であり、実際の代替規模が立証済みという意味ではない。Claudeで生成された歌詞の利用頻度、商用作品への採用状況、既存のライセンス収入との因果関係などは、今後の証拠開示で検討される可能性がある。
著作権管理情報も独立した請求原因になった。出版社側は、学習用テキストを処理する際に著作者名、権利者名、作品名などの識別情報が除去または改変され、Claudeが歌詞を再現しても適切な帰属情報が残らない状態になったと主張する。これは作品の複製そのものとは別に、米著作権法1202条に基づく責任を問うものだ。
「1作品最大15万ドル」の意味

原告は、故意の侵害について侵害作品1点当たり最大15万ドルの法定損害賠償を求めている。著作権管理情報の除去・改変については、違反1件当たり最大2万5000ドルを請求し得るとしている。訴状はこのほか、差し止め、侵害物の廃棄、学習データや学習方法の説明、陪審審理を求めた。
15万ドルは提訴時点で確定した賠償額ではなく、米著作権法が定める故意侵害の上限である。実際の金額は、侵害が認定されるか、対象作品が有効に登録されているか、故意性が認められるか、複数の行為を作品ごとにどう数えるかによって変わる。作品数に上限額を掛けた数字を、そのまま判決額とみなすことはできない。
Anthropicは反論、法的判断はこれから
Anthropicは出版社側の主張に同意せず、法廷で強く争う意向を示した。TechCrunchが掲載した同社コメント は、請求内容に反対し、裁判で防御するとの立場を伝えている。
2026年9月2日時点で公に確認できるAnthropic側の応答は、この短い声明までである。個々の取得経路、対象作品と学習データの対応、Claudeの出力、市場代替、著作権管理情報に関する具体的な反論は、答弁書や却下申立てなど今後の手続きで示されることになる。
このため、現時点の核心は「Claudeが歌詞を出した」という一論点ではない。裁判所が素材の取得、学習過程での複製、生成出力、市場への影響をどこまで分けて評価するか、また共同創業者個人への請求を認めるかが、事件の範囲を左右する。
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